日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。
Cone beam computed tomography analysis of dentoalveolar changes immediately after maxillary expansion.
Orthodontics (Chic.). 2011 Fall;12(3):202-9.
Domann CE1, Kau CH, English JD, Xia JJ, Souccar NM, Lee RP.
緒言
上顎急速拡大(RPE)は、思春期成長スパート前の混合歯列後期もしくは永久歯列前期に用いられる、歯列弓幅径やArch length discrepancyに対する治療である。
この治療による理想的な効果は歯の傾斜よりも骨格的な拡大であるが、固定源を歯に求めるため、骨格的な変化が歯の変化にとって代わってしまうことがある。
その効果は上顎正中離開、大臼歯間幅径の増加、下顎大臼歯のUpright、上顎大臼歯の頬側傾斜と挺出などである。
このRMEの変化について、多くの研究では模型やセファロが用いられるが、3次元のものを2次元で評価すると、どうしてもエラーが出てしまう。
しかしながら、CBCTを用いることで歯や顎骨の3次元立体構築を行うことができ、実物との割合も1:1で、誤差もおよそ0.6mm内で計測を行うことが可能である。
そこで、本研究では、RMEを行った直後の変化について、歯列弓幅径、臼歯部の角度、骨の厚みについて、CBCTを用いて評価した。
対象
・総合的な矯正治療を行う上で、上顎の側方拡大が必要な28人(男性: 9人、女性: 19人、平均年齢: 14.1歳)とした。
・選択基準は、RMEが必要な患者さん、マルチブラケット装置による治療が必要な患者さん、10-20歳の患者さん、CBCTの撮影が可能な患者さん、インフォームド コンセントが取れた患者さんとした。
・除外基準は、頭蓋顔面の変形を認める患者さん、SARPEが必要な患者さん、RPEを行う前に矯正治療を行った患者さん、研究の同意が得られなかった患者さんとした。
評価方法
・RPEにはHyrax applianceを用い、臨床的に必要な量まで、1回転/日の拡大を行うように指導した。
・RPE前(T1)と、RPE後(T2)にCBCTの撮影を行った。
・CBCTはSirona Galileos System(Sirona Dental System)を使用した。
14-second cycle、220 degrees、Volume dimension: 15x15x15cm3、Voxel size: 0.15-0.30mm、Grayscale: 12 bitであった。
・撮影したCBCTのデータは、Sidexis software(Sirona)を用いて評価した。
・評価項目は、歯槽性の変化として大臼歯間距離(上顎第一大臼歯近心舌側咬頭-近心舌側咬頭間距離)、小臼歯間幅径(上顎第一小臼歯舌側咬頭-舌側咬頭間距離)、大臼歯の傾斜(上顎第一大臼歯口蓋根と下顎咬合平面とのなす角)、小臼歯の傾斜(上顎第一小臼歯口蓋根と下顎咬合平面とのなす角)を計測した。
そして、骨格性の変化として頬側歯槽骨量(前頭断において、両側第一大臼歯近心頬側根、両側第一小臼歯頬側根における頬側左右側の骨量を、歯頚部と頬側根外側面の根管の中心から歯根1/3のところでスライスし、測定)、頬側歯槽骨の厚み(両側第一大臼歯近心頬側根、両側上顎第一大臼歯遠心頬側根、両側第一小臼歯頬側根における歯頚部と頬側根外側面の根管の中心から歯根1/3のところでスライスし、骨の厚みをT2-T1で計算し、測定)を測定した。
なお、頬側歯槽骨量は、存在している: 0、欠損している: 1というスコアで評価した。
結果
・28人すべての患者さんにおいて、大臼歯間幅径は測定可能であったが、2人の患者さんは抜歯により、1人の患者さんは先天性欠如により、1人の患者さんはT2におけるCBCT像にアーチファクトが認められたため、計4人において小臼歯の測定を行うことができなかった。
・歯槽性の変化について、小臼歯間幅径で4.7788±2.8474mm、大臼歯間幅径で4.6943±3.2198mm拡大されていた。
また、両側小臼歯と左側第一大臼歯において有意なPalatal root torqueが認められたが、右側第一大臼歯の傾斜に有意な変化は認められなかった。
・骨格性の変化について、多くの患者さんで、RPE後に小臼歯と第一大臼歯の頬側歯槽骨量の増加はみられなかった。
・5人の患者さんにおいて、両側第一大臼歯の近心頬側根、遠心頬側根の歯槽骨はほとんど認められず、6人の患者さんにおいては、小臼歯部においても同様に認められなかった。
また、頬側歯槽骨の厚みに関してもすべての患者さんのすべての部位について減少していた。
考察
・今回、T1-T2で、小臼歯間幅径と大臼歯間幅径がともに増加しており、これは、近年の2つの研究結果と同様のものであった。
その研究の一つは歯を固定源にした拡大装置を用いており、第一小臼歯と第一大臼歯の髄腔間距離について、それぞれ3.99±1.92mm、5.51±1.79mm拡大されていたと報告されている。
また、もう一つの研究では、第一大臼歯のみを固定源にしたButterfly typeで、拡大前と拡大後6ヵ月後における第一小臼歯口蓋咬頭間距離にて、平均6.1mmの拡大が認められたと報告されている。
2つの研究ともに固定源を歯に求めていたが、ともに有意に大臼歯間幅径が拡大していた。
・今回、第一小臼歯と第一大臼歯の傾斜を測定するにあたり、下顎咬合平面を基準にした。
この平面を基準にした理由は、上顎の拡大において影響を受けにくいためである。
この傾斜角を測定するメリットとして、値が増加していれば頬側傾斜しており、変化がなければ歯体移動しているという評価ができる。
そのため、根尖間距離を測定する必要がない。
今回の結果、右側第一大臼歯のみ頬側傾斜が認められなかった。
これを考察するには、歯によらない基準平面を設けるべきであると考えられる。
・今回、歯周組織の変化を頬側歯槽骨量と厚みで評価した、その結果、小臼歯、大臼歯でともに骨の厚みが薄くなっており、小臼歯の方が大臼歯と比較して有意であった。
この結果は過去の報告とも一致しており、RMEにより固定歯が頬側に押されたためと考えられる。
また、動的治療前の状態で骨の厚みが厚ければ、開窓や裂開が生じるリスクも少ないと報告されている。
まとめ
・歯を固定源にしたRMEでは、有意な頬側傾斜が生じる。
・下顎咬合平面を基準平面にして測定した結果、両側第一小臼歯と左側第一大臼歯の傾斜角が有意に増加しており、これは歯体移動よりも傾斜移動が生じたことを示している。
・RME直後に、頬側歯槽骨の厚みが減少していた。これより、歯周組織の破壊を防ぐためには、炎症のレベルを注意深く観察する必要があると考えられる。
・異なる研究の結果に対して互換性のある比較をするため、標準的な基準平面の確立と方法論の比較を行うことが必要であると考えられる。