日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。
Post-treatment changes in permanent retention.
J Orofac Orthop. 2016 Nov;77(6):446-453. Epub 2016 Oct 19.
Wolf M, Schulte U, Küpper K, Bourauel C, Keilig L, Papageorgiou SN, Dirk C, Kirschneck C, Daratsianos N, Jäger A.
緒言
矯正治療にとって、長期安定性は非常に大切な課題である。
この問題において、患者さんの協力が必要ない、固定式保定装置を用いた報告が多くなされている。
しかしながら、いまだに治療後の変化を確実に防ぐ方法は見出されていない。
後戻りの問題は、治療後に初診の状態に歯が戻ろうとすることによるものもあるが、保定処置そのものによって惹起されてしまうということある。
かなり昔の研究において、的確な保定法を行ったとしても、上下顎ともに前歯部により後戻りが認められやすいと報告されている。
Angleは、正常な咬合関係を確立することで後戻りを防ぐことが可能であると報告している。
Tweedの報告によると、小臼歯の抜歯を行うことで過剰な拡大を防ぐことができ、後戻りを防ぐことができるとされている。
しかしながら、これらの概念は、これでは確実な長期安定性を果たすことができないといわれている。
矯正治療における後戻りの減少に対する研究において、後戻りは移行歯肉線維のリモデリングが十分に行われないことにより生じると報告されており、この線維を歯周外科処置にて切断することで後戻りを防ぐことが可能であるとの報告もある。
その他の後戻りの防止法として、オーバーコレクション、下顎の犬歯間幅径をあまり変えないこと、下顎前歯を過度に唇側傾斜させないことなどが挙げられる。
今日の多くの保定における研究において、固定式装置を用いた方が、下顎前歯部を安定化させるうえで最も効果的で予測可能な方法であるとされている。
しかし、最近では、この方法を用いたとしても後戻りが生じることが報告されており、矯正治療のやり直しを余儀なくされる場合もある。
そこで、本研究では、固定式保定装置を用い、治療後の後戻りの様子をシステマティックに検証し、後戻りに対して一貫性のある動きなのかを確認し、術前と術後の状態を比較することで、後戻りが生じやすい歯の移動についても検証した。
対象
本研究は後ろ向き研究であり、対象は、2012-2015年にBonn大学矯正科にて矯正治療を行った、30人(男性: 13人、女性: 17人)の連続した患者さんにした。
選択基準は以下の通りである。
・動的治療期間が1年以上である。
・下顎前歯部に固定式法廷装置を用い、それ以外の保定装置を同部に使用していない。
・前歯部の先天性欠如を認めない。
・前歯部の抜歯を行っていない。
固定式保定装置としてTwistflex retainer(Denturum; Dentaflex 0.45mm three-strand twisted steel wire)を用い、犬歯-犬歯間の6本の前歯に装着した。
動的処置は、従来通り治療計画を立案した後に行い、今回は抜歯症例、非抜歯症例ともに対象にした。
動的治療後の30人の患者さんの平均年齢は24.52±4.36歳であった。
評価法
歯の位置の計測として、以下の方法を行った。
・すべての患者さんにおいて、初診時(T0)、動的治療終了後(T1)、動的治療終了6ヵ月以上後(T2)における下顎の模型を採得した。
・T1とT2の模型をレーザースキャン(Micromeasure70)し、3次元構築ソフト(Surfacer)を用いて歯と粘膜組織のデジタル3次元化を行った。
・寸法変化が生じやすいため、歯肉を除去し、歯の表面における歯の位置の計測を行った。
保定観察中の歯の移動を検証するため、T1とT2の重ね合わせを行った。
3次元モデルの重ね合わせについては、T1とT2の大臼歯表面が一番重なり合うところ(bestsurface matches)にて行った。
歯の移動の測定法は以下の通りである。
・下顎犬歯-犬歯の歯1本ずつにおけるT2を基準としたT1の歯の表面の回転および移動についてSurface-surface matching algorithmを用いて3次元解析した。
・用いた座標軸として、近遠心をX軸、頬舌側をY軸、歯軸をZ軸に設定した。
・回転における最小単位は1°、移動に対する最小単位は0.1mmにした。
術後のグループ分けにおいて、T2における下顎前歯の外見から、以下の3群に振り分けた。
・Grade 1. 変化が全くないか、合ってもわずかで再治療が必要ない程度。
・Grade 2. 再治療は必要ないが、中等度の変化を認め、注意深い観察が必要。
・Grade 3. 再治療が必要な程の変化が認められる。
また、歯の安定性を測る基準として、捻転が<5.0°を安定、5.0°-9.0°を中等度、>9.0°を重度とした。
治療におけるリスク要因として、T1とT0の模型において、犬歯間幅径、Over jet、を測定した。
また、T0の模型を使用し、治療において必要なスペースの測定を行った。
結果
・T1とT2を比較して、数人の患者さんにおいて、保定期間中に明らかな後戻りが認められた。
特に、T2において、小臼歯を基準にして犬歯の後戻りが認められた。これは、T1とT2の模型のデジタル化と重ね合わせからも確認することができ、犬歯で最も多く後戻りが認められ、中切歯で最小であった。そして、大部分のこの犬歯の動きは、中切歯の領域にある回転中心による捻転であった。
・術後の変化における程度を定性的、定量的に安定、中等度、重度に評価した。その結果、固定式保定装置にて55.68%の歯が安定しており、中等度の変化は30.00%、重度の変化は13.32%であった。
・術後の歯の移動様式において模型の重ね合わせを行った結果、犬歯において最も捻転と移動が認められた。
犬歯の捻転に関して、近遠心方向(X軸)に6.96±3.95°、頬舌方向(Y軸)に5.13±2.94°、歯軸方向(Z軸)に3.3±3.12°であり、重度の変化を認めた群は、X軸とY軸において安定もしくは中等度の変化の群と比較して有意差が認められたが、Z軸に関しては有意差が認められなかった。
犬歯の転位に関して、近遠心方向(X軸)の0.81±0.59mmと頬舌方向(Y軸)の0.95±0.43mmが一番大きかった。
歯軸方向(Z軸)では0.52±0.35mmで、挺出が認められた。
重度の変化を認めた群は、X軸、Y軸、Z軸のすべてにおいて安定もしくは中等度の変化の群と比較して有意差が認められ、中切歯と側切歯は、犬歯と比較して後戻りの程度がはるかに少なかった。
・治療による後戻りの影響について、T0とT1を比較した結果、T2において重度の患者さんは、安定や中等度の変化の患者さんと比較して、有意に犬歯間幅径の拡大とOverjetの減少が行われていたが、術前の下顎前歯の叢生の量と小臼歯抜歯の有無については有意差が認められなかった。
これより、矯正治療中に犬歯間幅径の拡大とOver jetの減少のうち1つでも行われた場合は、保定期間中の後戻りのリスクがあると考えられる。
考察
・下顎前歯部における固定式保定装置を用いた永久保定は、矯正治療の効果を安定させるのに最も効果的な方法の一つであるが、今回の研究において、この方法を用いても後戻りが認められた。
そして、この変化がどのようにして起こるのかについて、正確なことは未だに明らかにされていない。
・今回の結果は、過去のCase reportのものと一致しており、術前の不正咬合の状態と術後の後戻りに関しては関連性がなかった。
・今回の結果において、保定装置を装着している6本の歯において、中切歯にある回転中心において捻転が生じていた。
この理由についてはいまだにわかっていないが、リテーナーによって相互に接続されているため、片方が舌側に捻転した場合、もう片方は唇側に捻転してしまうと考えられる。
横方向の後戻りに関しては、下顎前歯部に狭窄の力がかかることにより、保定装置によって強固につながったブロックに捻転の力が加わってしまうと考えられる。
・年齢による下顎の前方成長の有無と程度も矯正治療後の後戻りと関連していると考えられる。
これは、下顎前歯に生理的なUprightの力がかかるためである。
また、保定装置装着時、無意識に歯に力をかけてしまい、医原性の原因で1本ないしは相互につながったすべての歯において後戻りを惹起してしまうことも考えられる。
・本研究において、矯正治療中の下顎犬歯間幅径の拡大とOver jetの減少が後戻りの要因になり得ることが明らかになった。
このことから、動的治療にてこれらの変化を起こした際は、固定式保定装置に加えて可撤式保定装置も合わせて使用することが望ましいと考えられる。
そのため、すでに固定式保定装置を装着していたとしても、下顎の唇側傾斜を起こさせた症例や犬歯間幅径を拡大した症例、明らかにスペースが必要な症例においては注意深く観察していく必要があると考えられる。
・捻転による後戻りに関して、保定装置の材料についても考える必要がある。ツイストされていないワイヤー(Twistflex-Draht)は、捻転による後戻りが生じやすいと考えられるが、過去の文献的には明らかではない。このため、保定装置の材料が後戻りに対してどのような影響を与えるか研究することは、これからの課題である。
まとめ
今回の研究により、下顎前歯部に対する固定式保定装置を装着しても後戻りが認められたが、やはりこの方法が一番効果的で安全な方法であると考えられる。
そして、治療により犬歯間幅径を拡大したり、下顎前歯の唇側傾斜によりOver jetの是正を行った場合、固定式保定装置に加えて可撤式保定装置も併用することで、より歯列弓の横幅の安定化がなされ、後戻りを生じさせづらくする可能性が示唆された。