院長ブログBlog

矯正治療; 歯周治療と矯正治療との関係について

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Orthodontic treatment of periodontally involved teeth after tissue regeneration.

Int J Periodontics Restorative Dent. 2008 Dec;28(6):559-67.

Ghezzi C, Masiero S, Silvestri M, Zanotti G, Rasperini G.

 

緒言

 歯の病的動揺(Pathologic tooth migration: PTM)は、歯周病による骨吸収が主な原因である。
 ポケット内の炎症性組織の圧力にも影響され、PTMはスマイルラインに対する審美的障害にもつながることから、患者さんの自尊心を低下させてしまう。
 骨吸収は認められるものの健康な歯周組織における歯の移動については様々な研究がなされており、炎症がなければ、付着に与える影響は少ないとされている。
 しかしながら、プラーク由来の炎症が認められれば、矯正力を負荷することでアタッチメント ロスにつながる。
 動物実験によると、OFDと矯正治療を組み合わせることでアタッチメント ゲインが可能であると報告されている。
 3壁性骨欠損に対してOFDを行い、歯体移動を行うことで歯周組織によるサポートの再建が可能であると報告されている。
 さらに、別の研究では、OFDと歯の圧下を行うことで、結合組織の新生が可能であったと報告されている。
 一方、GTR(Guided tissue regeneration)を併用することで、フラップ手術で掻爬するだけのものよりもポケット深さ(Probing pocket depth: PPD)の減少と、付着(clinical attachment level: CAL)の増加が可能で、わずかな歯肉の退縮が見られる程度であったと報告されている。
 そこで、本研究では、歯周治療と矯正治療の併用による歯周組織のへの効果を検証した。

対象

選択基準は以下の通りである。
・21歳以上である。
・全身疾患がなく、妊娠や授乳を行っていない。
・喫煙していない。
・重度歯周病でない。
・全顎的なPlaque score(FMPS)とBleeding score(FMBS)が<25%である。
・骨縁下PPD≧6mmである。
・PTMが認められる。
・矯正治療が必要である。

 以上の条件を満たしていたのは14人を対象にした。

治療経過 

 すべての患者さんに対して歯周外科手術前に基本検査を行い、SRPとTBIを行った。
 1ヵ月後に再評価を行い、FMPSとFMBSが<25%になった時点で口腔内写真、PPD、CAL、歯肉退縮量を測定し、研究を開始した。
 すべての患者さんにおいて、歯間空隙が2mmより大きい場合は、Modified papilla preservation techniqueを行い、2mm以下の場合はSimplified papilla preservation techniqueを行った。
 また、3壁性骨欠損に対してはEnamel matrix derivationを、1-2壁性骨欠損に対してはコラーゲン メンブレンと骨の移植を行った。
 患者さんには、抗菌材療法(3g/日×6日間)を行い、0.2%クロルヘキシジンで2回/日×15日間と、その後2週間は0.12%クロルヘキシジンの含嗽を行ってもらった。
 術後8日で抜糸を行い、矯正治療中にPMTCとTBIのためのリコールを行った。
 歯周外科1年後に矯正治療を開始した。
 矯正治療は.022”ブラケット装置を使用し、圧下や歯体移動など、目的の歯の移動を行った。
 研究開始時(T0)、GTR終了1年後(T360)、矯正治療終了時(TEND)での口腔内検査とレントゲン検査を行った。

結果

・T0-T360でのPPDの減少量は5.57±1.55mmで、残りのPPDは2.71±0.82mmであった。
・T0-T360でのCALの増加は、5.86±1.74mmで、残りのCALは4.28±1.68mmであった。
・T0-T360でのPPDの減少とCALの増加は有意であったが、T360-TENDでのPPDとCALには有意な変化が認められなかった(PPDの減少量: 0.07mm、CALの増加量: 0.57mm)。
 また、9人の患者さんにおいて、歯間乳頭の高さが増加していた。

 

考察

・歯周病科医は、炎症のコントロールに加えて、審美的側面やプロフェショナル ケアについても治療計画に盛り込まなくてはならない。
 そして、歯周病が進行すると、縁下ポケットが形成され、前歯部の唇側傾斜が惹起されてしまう。
・いくつかの研究においては、骨吸収が認められても、歯周組織が健康であればアタッチメント ロスを引き起こすことなく歯の移動が可能であるが、圧下や歯体移動は縁上のプラークを縁下に移動させてしまい、炎症のコントロールが不十分となり、骨縁下ポケットを惹起させてしまう。この、深い骨縁下欠損への唯一の再生法は、臨床的にも、組織学的にも、歯周組織の再建法であると報告されている。
・いくつかの研究では、矯正治療による歯の移動によって、重度歯周病に起因するPTMを再建手術なしで治療することができると報告している。
 この治療のゴールは、歯周病の進行の停止と、失った歯周組織の回復である。
 しかし、歯周組織の再建術は、安全で予知性の高い治療法であると考えられる。
・唇側傾斜してしまった歯に対する歯周治療と矯正治療の併用は、審美的改善にとっても重要である。
 実際、歯間乳頭の存在は、調和のとれた笑顔にとって非常に重要である。
・硬組織と軟組織の管理は臨床的に非常に大切であり、ブラック トライアングルは、審美的に問題がある。
・歯周治療と矯正治療との併用による歯間乳頭の高さの増加の一番の目的は、歯槽頂とコンタクト ポイントとの距離を減らすことである。
 もしもこの距離が5mmであれば、98%の下部鼓形空隙は完全に歯間乳頭で満たすことができるが、6mmであれば56%、7mm近くなれば27%しか満たすことができなくなる。
 10mmになると、下部鼓形空隙を減らすことはできないため、再建による骨サポートの増加と、隣接面削合によるコンタクト ポイントの下方への移動と、それに引き続き空隙閉鎖のための矯正治療が必要である。

 

まとめ

 今回の治療法において、n数は少ないが、GTRにより、PPDの減少とCALの増加を行うことができ、矯正治療中もそれが維持でき、PTMの再配列と歯間乳頭の高さを増加させることが可能であった。

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