院長ブログBlog

矯正治療; 矯正用アンカースクリューの安定に影響を与える因子について

カテゴリ:T.A.D.

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Risk Factors Associated With the Failure of Miniscrews – A Ten-Year Cross Sectional Study

Braz Oral Res. 2016 Oct 24;30(1):124.

Ana Cláudia Moreira Melo, Augusto Ricardo Andrighetto, Suélen Darab Hirt, Ana Luiza Melo Bongiolo, Siddhartha Uhrigshardt Silva, Marcos André Duarte da Silva

 

緒言

 矯正用インプラントに関する過去の研究において、矯正用インプラントの成功率は74-93%と報告されている。
 しかしながら、この矯正用インプラントの安定性に直接的に影響を与える因子についてはいまだに明らかにされていないが、矯正用インプラントの安定性を損なう主な原因は、埋入時の歯根への近接と矯正用インプラントの長さであるとの報告がある。
 矯正用インプラントの長さについて、上下顎のほとんどの部位において4-6mmであれば安全であると報告もされている。
 しかしながら、短い矯正用インプラントが脱離の原因になり得るかどうかは明らかでない。
 矯正用インプラントの直径を補足することで歯根接触のリスクを減らすことができるが、いくつかの研究では、矯正用インプラントの太さは埋入初期の安定性に重要な役割を果たすと報告されている。
 矯正用インプラントの安定性において、埋入部位の骨質と皮質骨の厚みも重要な因子であり、いくつかの研究では頭蓋顔面のパターンと皮質骨の厚みに相関関係があると報告されている。
 喫煙と矯正用インプラントの脱離との関係性についてはあまり調査されていないが、BayatとBaussらの近年の研究によると、1日10本以上喫煙される方は矯正用インプラント周囲に炎症と骨吸収が認められる割合が高いと報告されている。
 近年、臨床において矯正用インプラントが用いられる頻度が高くなってきたため、矯正用インプラントの安定性を妨げる因子を同定することは非常に重要である。
 本研究の目的は、患者さんの要因(年齢、性別、頭蓋顔面のパターン、喫煙の有無)、矯正用インプラントの因子(直径、長さ)、埋入部位の因子(上顎か下顎か、頬側か舌側か口蓋側か)が矯正用インプラントの安定性に与える影響を調査することである。

 方法

   本研究は後ろ向き横断研究である。
 Latin American Institute of Dental Reserch and Education(ILAPEO, Curyiitiba, Brazil)で2004-2013年の10年間に矯正用インプラントを埋入した患者さんを連続的に抽出した。
 患者さんの選択基準を永久歯列期で、矯正治療において矯正用インプラントが必要で、矯正治療が終了した方とした。
 今回の研究で対象にした矯正用インプラント(Neodent, Curitiba, Brazil)はすべて円錐体のもので、長さは5mm、7mm、9mmのもの、直径は1.3mm、1.4mm、1.6mmのものを使用した。
 矯正用インプラントの埋入部位は、軟組織の状態、歯の移動様式、事前にデンタルを撮影し、総合的に判断した。
 埋入の術式として、局所麻酔を行い、直径が1.3mmと1.4mmのものでは10Ncm、1.6mmのものは15Ncmを越えないように埋入時トルクを設定した。
 矯正力は埋入後即時に負荷させ、その力の大きさは歯の移動様式によって判断した。
 曝露変数として、以下の分類分けを行った。
1. 患者因子
性別、年齢、喫煙の有無、頭蓋顔面のパターン(Dolichofacial、Mesofacial、Brachyfacial)
頭蓋顔面のパターンについてはセファロ分析におけるNS.GoMe、NS.Gn、FMAを用いて判断し、それぞれの基準値は32.0°、67.0°、25.0°とした。
2. 矯正用インプラント因子
直径、長さ
3. 局所因子
骨(上顎、下顎)、埋入部位(頬側、舌側、口蓋側)

 矯正用インプラントの失敗の定義は、治療中に動揺がみられるか、埋入時に破折したものとした。

 結果

・対象になった患者さんの割合は以下の通りである。
女性: 423人(74.2%)、男性: 147人(25.8%)
喫煙の有無
なし: 517人(91.2%)、あり: 50人(8.8%)
頭蓋顔面のパターン
Brachyfacial: 69人(30.4%)、Mesiofacial: 58人(25.6%)、Dolichofacial: 100人(44.1%)
・矯正用インプラントの全体的な失敗率は10.9%(n=148; 95%CI: 9.3-12.6%)で、そのうちの7本は埋入時に破折していた。

 考察

・今回の研究における矯正用インプラントの全体的な成功率は89.10%であった。
   これは過去の研究において報告されている81.0-93.0%と一致していた。
・患者さんの年齢と性別はともに矯正用インプラントの失敗率に影響を与えておらず、これは過去の研究結果と一致していた。
 また、喫煙の有無についても矯正用インプラントの安定性との相関関係が認められなかった。
 BayatとBaussらの研究によると、1日10本以上喫煙される方は矯正用インプラント周囲に炎症と骨吸収が認められる割合が高いと報告されている。
 この研究結果と今回の結果との違いは、今回の研究では喫煙量について調査をしていなかったためと考えられる。
 それに加え、後ろ向き横断研究の特徴として、曝露変数と矯正用インプラントの失敗との時間的な関係を確認することが不可能であることも原因として考えられる。
・患者さんの頭蓋顔面のパターンは矯正用インプラントの失敗率に影響を与えておらず、これは過去の研究結果と一致していた。
 しかしながら、ある研究では、Low-angleの患者さんでは矯正用インプラントの安定性が高いと報告されている。
・今回の研究では、矯正用インプラントの長さは矯正用インプラントの安定性に影響を与えていた。
 5.0mmの矯正用インプラント(25.35%)は7.0mm(10.90%)、9.0mm(10.55%)、11.0mm(4.96%)の矯正用インプラントと比較して有意に失敗率が高かった。
 Suzukiらの5.0mm、6.0mm、7.0mmの矯正用インプラント186本を用いた研究によると、上顎の全体的な成功率は93.4%、下顎の全体的な成功率は70.3%だった。
 そして、成功した矯正用インプラントのうち最短のものは、上顎で5.0mm、下顎で6.0mmであったと報告されている。
 Sarulらの女性を対象にしたSplit-mouth studyによる前向き研究では、8.0mmの長さの矯正用インプラントの成功率は81.5%、6.0mmのものの成功率は66.0%であった。
 その他の研究では矯正用インプラントの長さと成功率との間に相関関係は認められなかったとの報告もなされている。
しかしながら、これらの研究に用いていた矯正用インプラントはすべて6.0mm以上であった。
・今回の研究において、矯正用インプラントの直径と矯正用インプラントの失敗についての有意な相関関係はみられなかった。
 しかしながら、過去の研究では、1.3mmと直径の小さな矯正用インプラントの成功率が有意に高かったとの報告がなされている。
・埋入部位において、今回の研究では頬側、舌側、口蓋側で失敗率に有意差は認められなかったものの、我々の過去の研究では、口蓋側に埋入した方(12.12%)が頬側に埋入する(9.93%)よりも失敗率が高い傾向であった。
 今回の研究と過去の研究の結果の違いは、矯正用インプラント頸部の長さの違い(1.0-2.0mm)によるものと考えられる。
    頸部が短いものは患者さんにとってより快適であり、合併症も少ない。
・今回の研究において、下顎(16.33%)は上顎(7.35%)と比較して有意に失敗率が高かった。
 過去の研究によると、下顎の方が失敗率が高いとの報告がなされている一方、Miyawakiらの研究では、上下顎に差は認められなかったと報告されている。
 Papageorgiouらは、下顎が上顎と比較して失敗率が高い原因として、下顎の方がより骨密度が高いためと考えている。
骨密度が高いことで埋入時のトルクが上顎と比較してより大きくなり、埋入時にオーバーヒートを起こしやすい。
 また、下顎は上顎と比較して口腔前庭が狭いため、患者さん自身によるクリーニングが困難であることも原因として考えられる。
 今回の研究では、上顎(n=14, 19.71%)と比較して下顎(n=57, 80.29%)でより短い矯正用インプラントが使用されていた。
   過去の研究でも同様に、5mmの矯正用インプラントを下顎に埋入すると、失敗率が高かったと報告されている。
・今回の研究にはいくつかの制限がみられた。
 最初に、後ろ向き横断研究は、矯正用インプラントの安定性を妨げるような患者さんの全身状態のような交絡因子はバイアスを生じてしまうことである。
 そして次に、データの喪失や臨床的技術にバラつきがある複数名での処置もバイアスにつながってしまう。
 しかしながら、本研究デザインの一番の強みは、サンプル数を多くとることが可能なことである。

 
まとめ

・今回の研究により、矯正用インプラントは絶対的な固定源として臨床上有用であることが示された。
・性別、年齢、喫煙の有無、頭蓋顔面のパターンなどの患者さんに関係する因子は矯正用インプラントの安定制に影響を与えていなかった。
・5.0mmの短い矯正用インプラントは失敗する可能性が高く、それは上顎と比較して下顎の方がより多く認められた。

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