日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。
Correction of severe open bite using miniscrew anchorage.
Aust Dent J. 2009 Dec;54(4):374-80.
Kaku M, Kawai A, Koseki H, Abedini S, Kawazoe A, Sasamoto T, Sunagawa H, Yamamoto R, Tsuka N, Motokawa M, Ohtani J, Fujita T, Kawata T, Tanne K.
緒言
舌突出癖や拇指吸引癖、アデノイドや扁桃腺の肥大が原因で前歯部開口を惹起することがあり、これにより顔面の垂直的な大きさが増加してしまう。
そのため、上記のような口腔習癖は成長期のできるだけ早い段階で改善するのが望ましい。
開咬の特徴として、しばしば上下顎臼歯部の垂直的過成長が認められる。
この治療法として、High pull Face bowとPalatal barの併用やMultiloop edgewise archwire(MEAW)と垂直ゴムの併用などが行われている。
しかし、これらの方法は患者さんの協力を要するため、必ずしも治療が成功するというわけではない。
外科的矯正治療により臼歯部の圧下と全体的な顔面高の減少させることも可能であるが、患者さんによっては外科処置に抵抗のある方もいる。
そこで、本文献は、重度開咬の症例に対してMiniscrewを用いて治療したCase reportである。
対象
患者さんは12歳10ヵ月の女の子で、前歯部開咬による咀嚼障害を主訴に来院した。
以前、別の矯正科医に外科的矯正治療を勧められたが、両親と患者さん本人がこれを拒否した。
現症
・11歳まで拇指吸引癖があり、舌突出癖は現在も認められる
・Convex type
・口唇閉鎖時のHypermentalis activity
・下顎の右方偏位
・Over bite: -6.8mm
・臼歯部Cross bite
・上顎のV字型歯列弓
・臼歯関係: 左側Class I、右側 Class II
・上下顎ともに叢生は認められない
・上顎歯列正中は顔面正中と一致しており、下顎歯列正中は2mm右方偏位
・上下顎ともに第三大臼歯が認められる
・ANB 5.9°でSkeletal Class II
・FME 35.8°でHigh angle
診断
・Skeletal Class II open bite
治療計画
治療計画は臼歯部のVertical controlと前歯部の挺出とした。
また、その他は以下の通りである。
・急速拡大装置を用いた上顎歯列弓幅径の拡大
・High pull Face bowとPalatal barによる上顎臼歯部の圧下
・下顎両側第三大臼歯の抜歯
・MEAWを用いた下顎臼歯部の圧下
・垂直ゴムを用いた前歯部の挺出
治療経過
・急速拡大装置を装着し、拡大量は0.4mm/日とした。
装着20日後に拡大は8mmになり、臼歯部Cross biteが改善したため、High pull Face bowとPalatal barを装着した。
・High pull Face bow装着1年後、上下顎に.018” Standard bracketを装着した。
・下顎両側第二大臼歯の圧下のために下顎両側第三大臼歯の抜歯を行い、上下顎にMEAWを装着した。
上顎第三大臼歯の抜歯については、いずれ行うことにした。
また、前歯部垂直ゴムの使用も開始した。
・MEAW装着18ヵ月後、Over biteが-2.5mmになった。
・その後6ヵ月で大きな変化が認められなかったため、Miniscrewを用いた臼歯部の圧下を行うことにした。
・上下顎両側とも第二小臼歯-第一大臼歯間頬側歯槽骨にMiniscrew(直径1.6mm、長さ 8mm: Dual top Auto Screw)を埋入した。
臼歯部圧下はPower chainで行い、下顎に関しては、頬側傾斜を防ぐため、Crown Ling Trを付与した。
・Miniscrew埋入12ヵ月後に臼歯部の圧下は終了し、Over biteは+1.5mmになった。
・上下顎ともにAlignmentと咬頭篏合が得られたため、BracketとMiniscrewを除去し、保定装置として上下顎ともに犬歯-犬歯間にFix retainerを装着した。
動的治療期間は36ヵ月だった。
また、上顎にはTongue crib付きBegg retainerも装着し、M.F.T.も開始した。
・保定開始36ヵ月経過しているが、安定した咬合が維持されている。
治療結果
・正常なOver jetとOver biteが得られ、上下顎歯列正中が一致した。
・上下顎ともにAlignmentがなされ、臼歯関係は両側Class Iになった。
・治療開始時よりも下口唇の緊張が緩和され、側貌がわずかに変化した。
・オルソパントモグラフィーにより、歯根の平行性が得られているが、わずかに歯根吸収が認められる部位が認められた。
・MEAWの治療前後による重ね合わせでは、上顎前歯の2mm挺出、下顎前歯の1mm挺出が認められた。
・MEAWの治療後とMiniscrewの治療後の重ね合わせでは、上顎臼歯部の1mm圧下、下顎第二大臼歯の2mm圧下が認められ、上下顎前歯部の1mm挺出が認められた。
・ANBは5.9°→ 5.2°になり、FMAは35.8°→ 35.0°に変化した。
・前歯部の挺出により、わずかに歯肉の露出量が増加したが、患者さんは笑顔に対して満足している。
考察
・これまでの研究では、開咬は上下顎臼歯部の垂直的過成長によるものであるため、前歯部の挺出を行うよりも臼歯部の圧下を行った方がより安定した結果を得ることができると報告されている。
MEAWは、臼歯部のUprightと後方移動により下顎の反時計回りの回転を起こし、前歯部の挺出を促すことで、前歯部開咬の治療を行うというメカニズムである。
しかし、今回の治療において、MEAWでは臼歯部の圧下を行うことはできなかった。
このような場合、Le Fort I + SSROによる外科的矯正治療を行うことで安定した結果を得ることができ、咬合は15年間安定していたとの報告がなされている。
この文献では、下顎のSSROを行うか否かにかかわらず、1-pieceでもMulti-segmentでも、Le Fort Iを行うことで骨格的に安定した結果を得ることができるとも報告されている。
一方、Miniscrewを用いた治療においては、上顎で平均1.8mm、下顎で平均1.2mmの圧下を行うことができ、下顎の反時計回りの結果、下顎下縁平面角が2.3°減少し、前顔面高が著しく減少したと報告されている研究もある。
今回の治療において、Miniscrewを用いることで臼歯部の圧下が達成され、垂直ゴムにより前歯部の挺出も行うことができ、咬合平面の反時計回りの回転がなされた。
また、下顎の反時計回りの回転により、側貌の改善もなされた。
まとめ
Miniscrewを用いて、重度開咬の症例に対して、患者さんの協力や有害な副作用なしに臼歯部の圧下を行うことが可能であった。