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矯正治療: 機能的矯正装置の効果について

カテゴリ:Functionaal Appliance

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

The effect of Frankel II and modified twin block appliances on the ‘C’-axis: the growth vector of the dentomaxillary complex.

Angle Orthod. 2004 Dec;74(6):749-53.
Braun, Diers NR, Engel G, Wojtkiewicz P, Ewing SK.

 

緒言

    機能的矯正装置の第一の目的は、下顎の前方位を取らせることである。
    下顎後退症を伴うClass IIの場合、下顎の前方位を取ることで下顎の成長が増強されると考えられている。
しかしながら、この考え方には議論の余地があると考えられる。
     この考え方を指示している研究者は、機能的矯正装置を用いることで、上顎複合体において「ヘッドギアの効果」も認められると考えられている。
 近年、上顎複合体の成長方向の評価として「C-axis」が用いられている。
    そこで、本研究では、Frankel IIとTwin Blockを用いた上顎複合体の変化をC-axisを用いて後ろ向きに評価した。

対象

   2つの診療所に来院した患者さんにおいて、以下の2群に分けて治療を行った。
・Fr群: 男性23人(平均年齢: 10.9歳、7.8-15.6歳)、女性23人(平均年齢: 9.7歳、7.4-14.0歳)の計46人で、Frankel IIを用いて治療をした群。
    治療平均期間は、男性で1.4年(0.7-2.8年)、女性で1.4年(0.5-2.2年)であった。
・TB群: 男性10人(平均年齢: 13.5歳、11.5-16.3歳)、女性6人(平均年齢: 12.4歳、11.0-14.3歳)の計46人で、Twin Blockを用いて治療をした群。
    治療平均期間は、男性で0.9年(0.7-1.3年)、女性では0.9年(0.5-1.6年)であった。

 両群ともに、機能的矯正装置を使用している間はその他の矯正治療は行わなかった。

評価方法

 治療開始時(T1)と動的治療終了時(T2)においてL-Rを撮影し、それぞれ上顎複合体の成長に関してC-axisを測定した。
そして、Fr群においては92枚のレントゲン、TB群においては32枚のレントゲンからそれぞれFr群で10枚ずつ(男女それぞれ10人)、TB群で8枚ずつ(男性5人と女性3人)をランダムに選択し、再度測定を行った。

結果ならびに考察

・治療を行わなかった男性の対照群では、C-axisの長さが7.4-18.8歳で平均1.14mm/年増加しており、相関係数は0.069であった。
    また、女性ではこの増加が山なりの曲線であり、相関係数は0.618であった。
    そして、治療を行わなかった7.4-18.8歳の対照群の男女におけるGrowth axis angleθ(S-NとS-M pointとのなす角)はそれぞれ0.35°/年、0.20°/年増加しており、Palatal plane angleα(ANS-PNSとC-axisとのなす角)はそれぞれ0.23°/年、0.20°/年増加していた。
    回帰分析のそれぞれの直線が水平であったことから、このθとαの相関関係は低いということができる。
・Fr群におけるC-axisの長さは男性で1.72mm/年、女性で1.11mm/年増加していた。
    そして、TB群では男性で1.24mm/年、女性で1.60mm/年増加していた。
    治療を行わなかった女性の対照群では2.02mm/年増加し、17歳以降ではこれが0.0mm/年に減少していた。
    このことから、機能的装置はC-axisに沿った成長を著しく抑制することはできないと考えられる。
    むしろ、治療を行った群ではわずかな増加が認められたものもあった。
    その理由として、治療を行った群は横断的な調査だったのに対し、治療を行わなかった情勢の群は連続的な調査だったことと、治療を行った群のサンプル数がともに少なかったことが影響していると考えられる。
・治療を行わなかった対照群におけるθの変化は、男性で0.35°/年、女性で0.20°/年だったのに対し、Fr群の男性で0.43°/年、女性で0.22°/年、TB群では男性で0.31°/年、女性で0.19°/年であった。
 治療をしていない群とした群との比較においては、臨床的に有意な差ではなく、トレースのエラー(最小で0.01°/年、最大で0.08°/年)によって容易に起こり得る程度の差である。
    治療を行った群のαに関して、最大はFr群の女性の0.6°/年(0.763°-0.201°/年)であり、最小はTB群の男性の0.12°/年(0.111°-0.226°)であった。
 このθとαの変化は、臨床的には有意なものではなかった。
例えば、Frankel IIを用いて2年間治療することを想定した場合、θの平均的な変化は男性で0.16°(0.43-0.35°/年)であり、αの平均的な変化は女性で1.2°(0.6°/年)ということになる。

まとめ

 上顎複合体の成長軸と考えられているC-axisを用いた評価において、Frankel II、Twin Blockのいずれの装置を用いても上顎複合体に対して臨床的に有意な効果は認められなかった。
    そのため、機能的矯正装置によるClass IIの治療機序としては、下顎の良好な成長を促すことによる歯槽的な変化である可能性が示唆された。

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