院長ブログBlog

矯正治療: 歯科矯正用アンカースクリューの生存率について

カテゴリ:T.A.D.

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Influence of interradicular and palatal placement of orthodontic mini-implants on the success (survival) rate

Head Face Med. 2017 Jun 14;13(1):14.
Jan Hourfar, Dirk Bister, Georgios Kanavakis, Jörg Alexander Lisson, Björn Ludwig

 

緒言

 矯正用アンカースクリューの中でも、ミニインプラントは最も小さいもので、上下顎の様々な部位への埋入が可能である。
 その他の矯正用アンカースクリューとして、例えばミニプレートが挙げられるが、埋入時に軟組織の切開が必要など、手技が複雑なため、通常口腔外科医によって埋入される。
 それと比較してミニインプラントは埋入と撤去が容易であり、患者さんの違和感も少ないため、日常の臨床に良く用いられている。
 ミニインプラントの成功率については様々な報告がなされているが、平均的には84%である。
 しかしながら、成功率は埋入部位によって異なり、52個の研究のMeta-analysisの結果では、失敗率が13.5%だったと報告されている。
 上顎口蓋前方の傍正中部への埋入は、高い成功率をほこる埋入部位のひとつである。
 Straumannの口蓋インプラントを用いた前向き研究では、成功率が95.7%だったと報告されている。
 別のSystematic reviewでは、ミニインプラントについて、口蓋への埋入は頬側歯根間への埋入よりも成功率が高かったと報告されている。
 ミニインプラントの成功率はインプラントと骨との接触面積がミニインプラントの性質やその他の要因よりも深く関係していると考えられている。
 また、急速拡大装置や上顎臼歯部の遠心移動などにおいて、口蓋前方の傍正中部に2本のミニインプラントを埋入する術式が用いられている。
 特に、ミニインプラントを用いた急速拡大は、傍正中部への埋入が必須である。
 本研究では、後ろ向きコホート研究により、頬側歯根間と第三口蓋雛壁部へのミニインプラントの埋入における成功率の比較と、患者さんの要因が成功率に与える影響について調査した。

 対象

 すべてのミニインプラントは直径1.7mm、長さ8.0mm(OrthoEasy, Forestadent)のものを用いた。
 対象の選択基準は、オルソパントモグラフィーとセファロ、矯正治療のバイオメカニクスを判断する口腔内写真、口腔内の衛生状態(Approximal Plaque Index(API))が完全に揃っていることにした。
 その結果、239人(男性: 102人、女性: 137人、平均年齢: 13.8歳(11.0-16.9歳)が対象になり、合計387本のミニインプラント(口蓋側: 190本、頬側歯根間: 197本)が対象になった。

 方法

 すべてのミニインプラントは同じ矯正専門のクリニックで埋入された。
 用いたミニスクリューの表面は陽極酸化されており、チタン-バナジウム合金製でセルフタッピングとセルフドリリングが行えるものだった。
 埋入術式は以下の通りである。
・埋入部位に0.2-0.5mLの局所麻酔を行った。
・すべての埋入部位に対して軟組織の切開やプレドリリングは行わなかった。
・上下顎ともに頬側においては、歯根間の齦頬移行部に埋入した。
・口蓋側においては、第三雛壁のすぐ後方の傍正中部へ左右それぞれ1本ずつ、計2本埋入し、矯正用装置に結合させた。
・すべての頬側に埋入したミニインプラントは埋入後即時に矯正力を負荷させた。
臼歯部近心移動については、ニッケルチタン コイルスプリングを用い、2N以上の力を用いた。
・すべての口蓋側に埋入したミニインプラントは、結合するための矯正装置を作成するのに日数を要するため、埋入3日後に矯正力を負荷させた。
・すべてのミニインプラントは直接的な固定源として使用した。
・すべてのバイオメカニクスにおいて、ミニインプラントに2N以上の矯正力を負荷させた。
・口蓋側に埋入したミニインプラントの使用法は、臼歯の遠心移動かHybrid hyraxタイプの急速拡大を行うかの2通りだった。
 これらの装置はともに、直接的にミニインプラントとつなぎ、1本のミニインプラントに対して2N以上の力を負荷させた。
・ミニインプラントは治療期間中は撤去せず、固定が必要な時期に脱落しなかったものを成功と定義した。

 
データ収集

 ミニインプラントの成功率について、以下の要因を分析した。
・解剖学的な埋入部位
・患者さんの人口動態のデータ(年齢、性別、口腔内の衛生状態)

 
結果

・387本中328本のミニインプラントが成功と考えられ、全体的な成功率は84.8%だった。
・頬側と口蓋側における成功率は著しい有意差が認められた。
 口蓋側の成功率は98.9%で、190本中2本のミニインプラントが脱落していた。
 この2本は同じ患者さんで、臼歯の遠心移動のために埋入されたもので、動揺が認められたため、撤去した。
 頬側の成功率は71.1%で、上下顎での有意差は認められなかった。
・患者さんに係わる因子について、30歳以上の患者さんに埋入した場合の失敗率は29.5%で、20-30歳の患者さんで14.8%、6-20歳の患者さんで13.3%であり、20-30歳、6-20歳の患者さんはともに30歳以上の患者さんと比較して失敗率が低かったが、有意差が認められたのは6-20歳の患者さんのみだった。
・性別においても成功率に有意差が認められた。
・Kaplan-Meierを用いて埋入した日からインプラントが脱離した日の生存率を計算したところ、59本のミニインプラントが早期に脱離もしくは撤去されていた。
 また、口蓋側に埋入されたものは頬側に埋入されたものと比較して生存率が有意に高かった。
 口蓋側に埋入されたものの平均的な埋入期間は24.4ヵ月だった。
 頬側に埋入されたものは、最初の3ヵ月で脱離する確率が高く、平均的な埋入期間は17.4ヵ月だった。

 
考察

・ここ数年、矯正用ミニインプラントの成功率についての研究が数多くなされており、66%から100%まで、その数値は様々である。
 これらの研究の平均値は85.50%(中央値: 85.46%)であり、これは2つのSystematic reviewの結果(83.6%)と非常に近似しており、今回の研究結果(84.8%)ともほぼ同様だった。
・今回調査したミニインプラントのほぼ半分(50.9%)は口蓋に埋入し、98.9%が成功していた。
 口蓋に埋入するミニインプラントは常に2本であり、これを結合することでミニインプラントの表面積が増加し、より安定性が増すと考えられる。
・ミニインプラントの成功率は、矯正力と埋入部位に大きく影響される。
 頬側に埋入したものは有意に成功率が低く、387本中59本(15.3%)の脱離が認められ、このうち57本は空隙閉鎖を目的にしたミニインプラントだった。
・ミニインプラントに負荷する矯正力は中程度のものが良いと報告されている。
 もしもより強い矯正力を負荷させる場合は、外側と内側の両皮質骨(Bicortical)への埋入が推奨されている。
・固定のデザインについても成功率に影響を与えると考えられる。
Antoszewskaらの研究では、間接的に矯正用アンカースクリューを使用(96.96%)した方が直接的に使用(92.60%)するよりも成功率が高かったが、有意差は認められなかったと報告されている。
 今回の研究ではすべて直接的に使用し、頬側に埋入したものについて成功率(71.1%)に影響した。
 口蓋側に埋入したものは矯正装置を用いて結合させたが、頬側に埋入したものは1本を単独で使用したため、これが成功率に影響したと考えらえる。
・患者さん固有の問題として、口腔内の衛生状態よりも年齢や性別が成功率に影響していたが、これは6-20歳の若年においてだった。
 30歳以上の患者さんにおける脱落率は29.5%で、20-30歳(14.8%)と6-20歳(13.3%)の値のほぼ2倍の値であった。
 この理由として、30歳以上の患者さんで用いた矯正用アンカースクリューのメカニクスは2N以上の矯正力による臼歯の近心移動であるためと考えられる。
・治療期間全体において、387本中59本のミニインプラントは早期に脱落もしくは撤去し、その生存期間は平均24.4ヵ月だった。
 頬側に埋入したものは最初の5ヵ月間での脱落率が高く、その平均生存期間は17.4ヵ月だった。
 過去の研究においても、埋入部位と成功率との間には有意な相関関係が認められるとの報告がなされている。

 まとめ

 今回の後ろ向き研究において、2N以上の矯正力を負荷させた場合、ミニインプラントの成功率は、主に埋入部位に左右されることが示された。
 2本のミニインプラントを口蓋前方の傍正中部に左右1本ずつ埋入し、矯正装置を用いて結合して直接的な固定源として使用することでほぼ100%の成功率を達成することが可能であった。
 頬側にミニインプラントを埋入し、単独で固定源として使用する場合の成功率は71.7%と有意に低く、上下顎での有意差は認められなかった。

To the Top