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矯正治療: Le Fort I型骨切り術について

カテゴリ:Surgery

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Le Fort I Osteotomy for Maxillary Repositioning
and Distraction Techniques

Antonio Cortese

   本文献は、上顎に対するLe Fort I型骨切り術とDistractionについてまとめたものである。
以下に、その要点をまとめる。

Le Fort I: Classic surgical technique

     血管の壊死を防ぐため、上顎の完全な可動化を行った後の出血のコントロールと血管の保存は、とても大切である。
特に、Segmentalの場合、矯正装置や口蓋のスプリントにより口蓋粘膜が圧迫され、部分的な壊死や上顎骨の変形を惹起してしまう。そのためには、口蓋粘膜線維の保存が重要な因子である。

Maxillary segmentation

    上顎骨に血管の供給を確保するためには、少なくとも3つか4つ以下の分割にとどめるべきである。
その理由は、あまりに多くの分割を行うと、壊死のリスクが増加してしまうためである。

Bone grafts

    上顎の垂直的な移動を行い、ギャップが3.0mm以上であれば、ミニプレートによる固定だけでは骨の治癒が不十分であり、骨の安定性を損なう可能性がある。
    この場合は骨移植が必要であり、採取部の第一選択は腸骨である。
その他の部位として、下顎や頭蓋冠も有効である。
    他家骨移植も自家骨移植と同様に有効であるが、他家骨移植の方が治癒が遅い傾向にある。
    人口材料を用いた移植として、上顎骨切り術時の欠損部にハイドロキシアパタイト様のものを用いることもあるが、この材料が骨に置き換わることはない。
    そのため、自家骨移植が上顎への骨移植にとっての第一選択である。


Soft tissue closure

    上顎のAdvanceは、口唇の緊張を引き起こす。
    これは、縫合時に多量の組織をとらえることにより、過度に組織を圧迫することが原因であると。
    また、縫合の失敗や瘢痕化により口唇が短くなり、鼻翼が広がってしまうことも考えられる。
しかしながら、一番の要因は、上顎のAdvanceにより軟組織のテンションが増加するためと考えられる。
    この問題を避けるためには、軟組織の縫合時のテクニックとして、Alar cinchingとDouble V-Y sutureという2つの方法がある。


Problems and complication

    術後すぐの合併症として、鼻腔の狭窄や閉鎖があげられる。
    これを防ぐためには、特に顎間固定を行っている場合は、鼻腔を血液外被や分泌物の吸引と湿ったガーゼによる清拭にて鼻腔を清潔に保つことが重要である。
    また、術後すぐに著しい顔面の浮腫が生じる可能性がある。
    このピークは術後2-3日で、2週間をかけてだんだんと引いてくる。
    浮腫に対しては、副腎皮質ステロイド薬を手術1日前-術後3日服用することで予防し、また、術後1日間は頭を1日中上方位にし、さらに冷やすことが有効である。
     そして、出血も術後すぐに起こりえる合併症の一つである。
    眼下や歯槽神経の麻痺も合併症として挙げられるが、通常は6-12ヵ月で治癒する。
    上顎の手術において、術後の最も危険な問題は、血管の供給が断たれることによる部分的もしくは完全な上顎骨の壊死である。
    上顎の無菌性壊死は通常血管の損傷により惹起され、1%以下の確立でLe Fort Iに合併して生じることがある。
    口蓋の粘膜線維は薄く、2分割時に上顎を水平方向に動かす際に過度な牽引力がかかることにより、口蓋粘膜を穿孔してしまうことで上顎のDown fracture後に口蓋動脈からの血管供給が断たれることがある。
    特にSegmentalにおいて、口蓋の装置により口蓋の軟組織を圧迫することでも血液の供給が遮断されることがある。
    上顎骨の血管の壊死の問題は、歯髄壊死、歯周組織の損傷、歯の喪失、骨吸収、上顎全体の壊死を含むものである。
    上顎の無菌性壊死は血管の異常、頭蓋顔面の異形成、クレフトに対する最初の手術後の瘢痕化に関係している。
この治療法は、口腔内を注意深く掻把し、壊死組織を除去した後、抗菌薬の投与、ヘパリン処置、高圧酸素療法を行う。
    また、上顎手術における重要な合併症は、Down fracture時の不完全な骨折である。
この時、翼状突起の骨折は避けるべきである。
    翼状突起の骨折は頭蓋底や眼窩の外傷を惹起する可能性がある。
    そして、まれに、切開線近くの血液の供給がなくなることにより、歯や歯周組織に影響が生じることがある。


Consideration on nasal airway and sinus cavity

    上顎骨の垂直的な過成長において上顎の上方移動を行う際、この移動は鼻腔のボリュームを減少させるため、特に鼻中隔が短くなく、偏位している場合は鼻呼吸に対する注意が必要である。
     口蓋のImpactionにより鼻腔の容積は減少するが、上顎のAdvanceもしくは上方移動により、外鼻腔のサポートが増加するとも言われており、これらは矛盾した説明である。
    Le Fort Iによる上顎のImpactionを行った患者さんの術前と術後の鼻腔の容積について調査した研究では、上顎のImpactionによる鼻呼吸の制限はみられなかったと報告されており、この結果は、鼻腔底を含んでも含まなくても、上顎のImpactionによる鼻呼吸の抑制は認められないということを示している。
    これには、手術による外鼻腔の角度の増加や鼻翼の拡大が関与していると考えられる。
     Le Fort Iによる上顎の前上方移動を行った患者さんにセファロ分析、鼻科学診査、前方鼻腔通気度検査、音響鼻腔計測法を行った結果、鼻翼間距離と鼻腔弁が拡大されていた。
    鼻腔内容積は減少していたものの、これらの拡大により、総合的な鼻腔の気道には影響がなかった。
    上顎のImpactionにより、まれに鼻呼吸が制限されるとの報告がなされているが、外科手術による上顎の側方拡大や前方移動では、ほとんどの場合で鼻腔の開在性が増加すると報告されている。
    また、鼻腔弁の形が、涙滴状から術後には円形になると報告されている。
    上顎のAdvanceはNasolabial angle、Nasal tip inclination、Alar base width、Columellar angleを増加させ、Columellar length、Nostril axis angleは減少し、Nostril areaに関しては変わらないと報告されている。
    CBCTを用いたSkeletal Class IIIにおける上顎のAdvanceとImpactionの併用とと下顎のSetbackを行った調査では、Nasal tipが前後的に移動しており、Alar base widthは拡大していた。
    もしも上顎のAdvanceとImpactionにより鼻呼吸量が増加するとして、かなりのImpaction量を行う治療計画を立案した際の鼻中隔の変化についてはかなりの注意が必要である。


Anterior sub-apical osteotomy

    この方法は、Le Fort Iが進化したもので、上顎前歯部をより審美的に位置づけるために考えられた術式である。


Lateral sub-apical osteotomy

    この方法は、歯列がAlignmentされた状態で、骨切り部の歯根間距離が3mm必要である。
    術後に顔面に浮腫を伴う場合があるが、2-3日後をピークに、2週間ほどかけて徐々に改善していく。
    感覚麻痺が生じることがあるが、4ヵ月-1年で治癒する可能性が高く、冷たいものが感じなくても、血液の供給はなされていることが多い。
    また、術直後は上唇や鼻側部の感覚麻痺を生じることがある。

Palatal Expansion: Bone Born distraction technique

    正中口蓋縫合が骨化する年齢に関しては様々な意見があるが、通常は骨が成熟する14-15歳と考えられている。
    この年齢を越えての上顎側方拡大は、外科的な処置が必要である。
この方法には、以下の3つが挙げられる。
・The segmental Le Fort I osteotomy(LFI-E)
・Surgical assisted rapid maxillary expansion by a tooth borne device(SARME-dental)
・Surgical assisted rapid maxillary expansion by a bone borne device (SARME-bone)

    最初に上顎の側方拡大を手術にてI期的に行う方法が紹介されたが、これは安定性に欠けた。
    3-pieceに分割して行う方法では、口蓋線維粘膜の牽引、骨片の傾斜、根へのダメージのリスクによる拡大量の制限、拡大後のPremaxillaへの血液供給の遮断による骨壊死、骨片の固定の問題などがあった。
    その他のLEI-Eの問題点としては、口蓋動脈による術中と術後の出血、上顎洞や鼻腔への穿孔、骨片の動揺、多く拡大した後の歯肉乳頭の欠損などが挙げられる。
    2つ目の方法として紹介されたSARME-dentalは、2回の手術によるLe Fort Iで上顎のAdvanceや咬合平面の修正を行う方法である。
    この方法の利点は、拡大により新たな骨が形成され、軟組織が化骨延長術によって口蓋線維粘膜の組織形成が行われ、拡大を制限することなく新たな軟組織も形成される。
    欠点は、歯に拡大力が加わることによる頬側皮質骨の開窓、歯周組織の損傷、根吸収、歯の頬側傾斜と後戻りである。
    3つ目の方法として紹介されたSARME-boneも、側方拡大と3次元的な位置付けのためには2段階の手術が必要である。
    この方法は骨に直接拡大力を加え、歯に力をかけるわけではないため、上記のSARME-dentalの欠点が解消される。
    この拡大装置で一番多く使用されているのはTranspalatal distractor(TPD)である。
    一番のメリットは、拡大力が抵抗中心付近の骨に直接かかることにより、歯の頬側傾斜が生じず、骨片の頬側回転も最小限にとどめることが可能である。
    LEI-Eにおける後戻りは、非常に大きな問題である。
    SARMEの問題点としては、装置の不安定性であり、これにより保定が不十分になる可能性がある。


Palatal distraction and maxillary tridimensional repositioning in one stage

    SARME-boneの術式としては、Predrillingを行った後、8mmのスクリューを口蓋粘膜に、根への障害や嚥下のことを考えた位置に4ヵ所に埋入する。
    この埋入する位置は、第一-第二小臼歯間根尖部と、第一-第二大臼歯間根尖部である。
    手術7日後の治癒期間を経て、装置を4回/日(0.20mm×4回)回転してもらう。
    純粋な骨の移動がなされ、歯の移動は最低限に抑えられるため、オーバーコレクションは不要である。
    拡大後、下顎臼歯部の舌側傾斜に対するDecompensationとして、度々上顎臼歯部のHang downが生じることがある。
   これは、臼歯部交叉咬合の改善後、下顎臼歯部頬側咬頭に新たな咬合力が加わることにより生じる。
    SARME-boneは歯で抵抗するリスクがないため、より装置を確実に保持することができ、骨片の側方移動が可能である。

Consideration about different(tooth born and bone born) palatal expansion techniques

    SARME-dentalはSARME-boneと比較して術後の後戻りのリスクがある。
    SARME-dentalとSARME-boneの位置の違いによる抵抗中心との関係性から、傾斜を起こしやすいためである。
    この抵抗中心は、縫合の離開、特に翼突上顎縫合の離開の有無、軟組織や郊外骨などを複合的に考えなくてはならない。
    強い骨縫合は、拡大時に旋回軸として働き、通常、口蓋骨の後上方にあると考えられている。
この理由は、側方拡大時に前歯部では臼歯部よりも拡大量が多く、V字型を示すためである。
    前歯部で多くのスペースを必要としない場合や、臼歯部交叉咬合の程度が重度で、このV字型の拡大を防ぐためには、装置の位置付けが非常に重要である。
    LEI-Eは側方拡大と3次元的な位置付けを同時に行うことが可能だが、安定性に欠ける。
    そして、Down-fracture時に側方拡大を行おうとしても、口蓋の垂直板の影響により、どうしてもV字型の拡大を示す。
   これらのことから、SARME-boneが推奨される。

Problems and complications

    まれではあるが、LEI-Eでは術中と術後に重篤な出血が認められる場合がある。
    また、骨片の安定化の問題、上顎洞や鼻腔への穿孔の問題、歯間乳頭の喪失などが合併症として考えられる。
    SARME-dentalの場合、上記のような合併症はほとんど生じないが、歯によって抵抗するため、歯周組織の障害や根吸収が考えられ、また、上顎の3次元的な位置付けが必要な場合は2度の手術が必要である。
    SARME-boneに関しても、SARME-dentalで考えなくてならないような合併症の頻度は少ないものの、上顎の3次元的な位置付けが必要な場合は2度の手術が必要である。
    逆に、LEI-Eの利点は、SARMEと違って手術が1回で済むことである。
    また、左右非対称の拡大が可能であることや、装置の誤嚥の可能性がないことも挙げられる。

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