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矯正治療: 早期の治療の必要性について

カテゴリ:Merit

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Prevalence of malocclusions in the early mixed dentition and orthodontic treatment need.

Eur J Orthod. 2004 Jun;26(3):237-44.
Tausche E1, Luck O, Harzer W.

 

緒言

 咬合の不調和や顎運動が障害されている場合、または歯の数に異常がある場合は、正常な歯列弓の成長を促すために早期の治療が必要である。
    しかしながら、早期に治療することで患者さんの協力度が減少してしまう可能性があり、成長に関する予測も不可欠である。
    重度叢生とClass IIにおいても早期治療がすすめられており、Class IIの重症度を7-14歳の子供の長期観察を行った研究では、初診の段階で軽度な症例の方が重度の症例よりも経年的により進行していたと報告されている。
    交叉咬合についても早期治療を行うべきで、臼歯部交叉咬合は発展途上国よりも先進国でよりみられるようになってきている。
 治療の必要性を判断する手段として、The Index of Orthodontic Treatment Need(IOTN)、Dental Health Component(DHC)、Standard Component of Aesthetic Need(SCAN)がひろく用いられている。
また、Missing、Over jet、Cross bite、Displacement、Over biteの頭文字をとったMOCDOに関しても、優先的な治療が必要出るという評価法である。
 そこで、本研究では、長期的な横断研究により早期混合歯列期のおけるIOTNを用いた不正咬合の有病率の評価を行った。

 対象

・1996-1997年にドルスデン小学校に通う小学生8,768人の中から6歳-8歳11ヵ月早期混合歯列期の1,975人(男の子: 970人、女の子: 1005人)。

 評価法

・側貌と口腔のアップのお写真により評価した。
・DHCとSCANに基づき、IOTNにより矯正治療の必要性を評価した。
この指標は解剖学的な問題とは別に、機能的な不調和においてもスコア化することができ、「治療の必要なし」、「ボーダーケースである」、「治療の必要性が強くある」を、DHCで5段階、SCANで10段階で評価した。
・年齢ではなく歯の萌出の程度により治療開始を判断するため、それぞれの発育度合いによって中切歯と第一大臼歯萌出開始(72.5%)、中切歯と第一大臼歯萌出完了(20.2%)、犬歯と第一もしくは第二小臼歯萌出開始(5.8%)、乳歯列期(1.6%)にグループ分けをした。

 結果

・1-12mmの開咬は17.7%に認められた。
・過蓋咬合は46.2%に認められた。
・交叉咬合については、左側よりも右側の方が多く認められ、7.7%が両側性であった。
・鋏状咬合は非常に稀で、0.5%であった。
・反対咬合を有するSkeletal Class IIIは3.2%だった。
・Over jetが+3.5mm以上のClass II div. 1は31.4%であった。
・下顎前歯部において3mm以上の叢生が認められるのは14.3%で、上顎の場合は12.0%であった。
・DHC≧4以で、IOTNにて治療に緊急性を要するものは26.2%であり、SCAN≧8で緊急に治療が必要なのは21.5%であった。
・SCANにより治療が必要と判断されたものは、DHCで51.7%、SCANで66.0%であった。
・9-11歳で治療が必要な割合について、IOTN-DHCのグレード3(中等度治療が必要であるもしくはボーダーケース)は45.0%であった。

 考察

・過去の研究によると、早期治療が奏功するかどうかは個人差が大きく、開咬と上顎前突は、まず初めに吸指癖やその他の口腔習癖をやめさせることが必要であると報告されている。
    別の研究でも、早期治療を開始するかどうかは症状の重症度と筋機能システムに与える影響によるとされている。
しかしながら、本研究において、Over jetが6.1mm以上だったものは6.3%だった。
・反対咬合は、顔面の非対称の成長を防ぐためにも早期治療が望ましいと考えられる。
・Class IIIの治療において、青年期よりも若年者の方が治療が効果的であり、上顎側方拡大についても、正中口蓋縫合が骨化する前に行うのが効果的であると考えられている。
    これについては個人差があるが、下顎の機能的偏位を認める交叉咬合は、上下顎に対称の成長をさせるためにも早期治療が良いと考えられる。
    また、交叉咬合は咬合力の非対称性を惹起するとも報告されている。
・Over jetが9.0mm以上で、下顎前歯が上顎歯肉に干渉するほどの過蓋咬合を有する場合、歯の破折を防ぎ、正常な口唇の機能をさせるために早期治療が良いと考えられる。
・この時期の開咬の治療ゴールは、口唇の機能と口呼吸の改善であり、筋機能療法が適していると考えられる。
・交叉咬合と反対咬合については、経年的に悪化していくことが報告されているため、バラ
ンスのとれた成長と良い咬合の獲得のため、早期の治療が必要である。

 まとめ

・6-8歳の子供の不正咬合の有病率は大人と同程度であったが、特異的な症状についてはバラつきがみられた。
・過蓋咬合と上顎前突がより多く認められたが、これは成長により改善していく可能性が考えられる。
・IOTNのデータは、早期治療の必要性を判断するうえで重要な指標である。反対咬合、交叉咬合、重度過蓋咬合と上顎前突は早期に治療すべきである可能性が示唆された。

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