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矯正治療; 上顎の前歯の後方移動について

カテゴリ:Tooth Movement

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

En masse retraction and two-step retraction of maxillary anterior teeth in adult Class I women. A comparison of anchorage loss.

Angle Orthod. 2007 Nov;77(6):973-8.
Heo W1, Nahm DS, Baek SH.Author information

 

目的

 本研究では、抜歯症例において、En-masseと2-stepにおける臼歯部と前歯部の動きを比較した。

実験方法

 対象は30人のClass Iの女性で、口唇の突出が認められ、上顎前歯部後方移動において最大の固定を要する患者さんとし、以下の2群に振り分けた。
・Group.1: 15人の女性(平均年齢: 21.4歳)で、上顎前歯部の遠心移動をEn-masse(Sliding mechanics)にて行った。
・Group.2: 15人の女性(平均年齢: 24.6歳)で、上顎前歯部の遠心移動を2-step(Sliding mechanics+ Loop mechanics)にて行った。

 前歯部の遠心移動に際しては、.019x.025” SSを用い、ループの高さは8mm、45°のGable bendを組み込み、1mmのActivationで150gの矯正力がかかるようにした。また、1回のActivate量は1mmにした。
治療前(T1)と治療後(T2)にて、9項目の骨格的評価と、10項目の固定源に対する評価を行った。
両群ともに.022” ブラケットを使用した。

結果

・治療期間はGroup.2の方がGroup.1よりも長かったが、前歯部遠心移動に要した期間については、
 両群に有意差が認められなかった。
・T2で、Group.2においてわずかな根の唇側傾斜が認められ、Group.1と比較して、上顎中切歯の歯軸
 (U1-Pp)と中切歯歯根前後的な位置(U1A-Hor)に有意差が認められた。
・中切歯切縁の前後的な位置(U1-Hor)に有意差は認められなかったが、垂直的な位置(U1E-Ver)には有意差
 が認められた。
・上顎大臼歯の移動(U6-Pp、U6M-Hor、U6A-Hor、U6C-Ver、U6F-Ver)については両群に有意差が
 認められず、両群ともに近心への歯体移動が認められた。
・およそ、前歯部と臼歯部の動きの比率は4:1であった。

考察

・Group.1において、上顎前歯は傾斜移動と歯体移動の組み合わせで動いていた。しかしながら、Group.2は
 Uncontrolled tippingにより動いており、結果として前歯切縁が下方に移動していた。
  傾斜移動は歯体移動よりも固定源を必要とせず、また、移動も簡単である。この点からすると、
 Group.2はGroup.1と比較して固定源の喪失という意味では有利である。しかし、両群で第一大臼歯の動き
 に有意差が認められなかったことから、Group.2における固定源の喪失は、2-stepによる前歯部の遠心移
 動により、固定源の維持を保存するという利点が失われた可能性があると考えられる。

まとめ

 以上のことより、前歯部の遠心移動の方法を選択する場合、固定源の喪失よりも前歯部の歯軸や垂直的な位置について注意を払う必要がある可能性が示唆された。

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