日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。
Group Distal Movement of Teeth using Micro-Screw-Implant Anchorage-A Case Report.
J Clin Diagn Res. 2014 May;8(5).
Kalarickal B.
目的
Micro-implantsを用いて、歯の欠損部を利用し、上顎歯列弓のDistalizeを行ったCase reportである。
対象
患者さんは29歳の女性で、上顎前歯の突出を主訴に来院した。
現症
視診所見
・Convex profile
・口唇閉鎖不全(6.0mm)
・鋭角なNaso-labial angle
・Hyparactive mentolabial sulcus
・下顎下縁平面の傾斜は平均的
・顎関節に特記事項無し
・上顎両側第一大臼歯と上顎右側第二大臼歯の欠損(むし歯のため、抜歯を行った)
・犬歯関係 Class II(End on)
・Over jet: +8.0mm
・Over bite: +3.0mm
・上顎前歯の唇側傾斜
・下顎両側第一大臼歯の交叉咬合
・上下顎両側第二小臼歯の捻転
・下顎右側第一大臼歯の挺出
・上下顎歯列正中は顔面正中と一致している
セファロ所見
・Skeletal Class II
・下顎下縁平面の傾斜は平均的
・上顎前歯の唇側傾斜
治療目的
・上顎前歯の後方移動による口唇の突出と軟組織の審美的な改善
・犬歯関係 Class Iの確立
・上顎右側大臼歯欠損部のインプラントによる補綴処置
治療計画
・上顎前歯の後方移動のためのスペースを、上顎小臼歯の抜歯により確保する計画をしたが、上顎の歯の本数が少なくなりすぎてしまうため、Micro-implantsを用いた上顎歯列弓のDistalizeを行う計画にした。
・下顎小臼歯の捻転の改善
・下顎右側第一大臼歯の圧下
治療経過
・上下顎に.022” MBT straight bracketを装着した。
・交叉咬合の改善のため、下顎に.032” TMAリンガルアーチをConstrictして装着した。
・Bracket装着8ヵ月後、LevelingとAlignmentが終了したため、以下の部位にMicro-implantsの埋入を行った。
上顎右側頬側: 直径1.3mm、長さ10mmのMicro-implantsを2本、第二小臼歯の7-8mm遠心に、歯軸に対して30-40°の角度で、深さ8mmに埋入し、Micro-implants頭部に大臼歯のチューブを合着した。
上顎左側頬側: 直径1.3mm、長さ8mmのMicro-implantsを1本、第二小臼歯-第二大臼歯間に歯軸に対して30-40°の角度で埋入した。
下顎右側頬側: 直径1.3mm、長さ8mmのMicro-implantsを1本、第一大臼歯-第二大臼歯間に歯軸に対して30-40°の角度で埋入した。
・.019x.025” SSにSecond order bendを付与し、上顎右側部Micro-implantsも含めて上顎に結紮し、上顎歯列弓のDistalizeを行った。Micro-implants-側切歯遠心のLong crimpable hookに片側150gm Niti coil springを用い、最終的には片側200gmにした。
また、下顎のMicro-implantsは、対合のインプラントのためのクリアランスを確保するため、右側第一大臼歯の圧下のために使用した。
・動的治療期間は20ヵ月であった。
・保定装置は上下顎ともにBegg retainerを使用した。
治療結果
・当初の目的であった上顎歯列弓のDistalizeが達成され、口唇の突出感が改善された。
・犬歯関係 Class Iか確立された。
・適切なOver jetとOver biteが付与された。
・セファロ分析より、上顎は7.0mmの遠心移動がなされ、U1-SNとU1-PPはそれぞれ8.0mmの遠心移動がなされた。
考察
・Titanium micro implant screwは、埋入しやすい、低価格、外科的侵襲が少ない、即時負荷が可能であるなどのメリットがある。また、サイズが小さいため、解剖学的な制約を受けづらく、様々な方向への力をかけることが可能である。
過去の研究では、直径が1.5mm以上のMicro-implantsは、微小な皮質骨の損傷がより大きく生じ、骨のりモデリングや安定性に影響を与えると報告されているため、今回の症例には直径1.3mm、長さ10mmのMicro-implantsを使用した。
そして、本症例では埋入時や撤去時の脱離や破折は認められなかった。
別の研究では、海綿骨や骨密度の低い箇所へのMicro-implantsは、直径1.3-1.5mmで、長さが長いものが推奨されると報告されている。
・上顎右側のMicro-implantsは、第二小臼歯遠心から7-8mmで付着歯肉と可動粘膜との境界部の位置に、長さ10mmのものを隣接歯歯軸に対して30-40°の角度で深さ8mmに、それぞれ5mm間隔で平行に埋入した。そして、この2本のMicro-implantsの頭部に臼歯部用のチューブを接着し、上顎歯列弓のDistalizeに対して3次元的なコントロールをすることが可能であった。
上顎左側に関しては、第二小臼歯の捻転が改善され、空隙閉鎖終了後に第二小臼歯-第二大臼歯間にMicro-implantsを埋入し、上顎歯列弓のDistalizeを開始した。
・矯正用インプラントを用いる際の力線ができるだけ上顎歯列弓の抵抗中心の近くを通るように、上顎左側遠心にLong crimpable hookを装着した。
・従来通りの方法では、Distalizeは下顎下縁平面の急峻化を惹起するが、今回の症例ではMP-SN、MP-PPは変化していなかった。その理由として、上顎歯列弓のDistalizeにおいて、その力線が上顎歯列弓の抵抗中心の近くだったため、咬合平面の傾斜を防ぐことができたためと考えられる。
・下顎右側第一大臼歯において、Micro-implantsとアーチワイヤーを結ぶことで圧下力を生じさせ、圧下が達成されたことで、対合のインプラントのためのクリアランスを形成することができた。
・今回の治療では、上顎歯列弓のDistalizeにおいて、Micro-implantsには200gmの遠心力を負荷した。
過去の研究では、歯のグループでの遠心移動のおけるMicro-implantsの成功率は90%と報告されている。
・歯根吸収による歯根の鈍化は、通常セメント質の形成により治癒される。
矯正装置の過度に頻繁な調整は通常の歯の移動と骨のりモデリングが障害されるため、調整は長い間隔で行うことが推奨される。
・上顎の歯の移動に際して、上顎洞の下縁により歯の動きが制限されることがあるため、注意が必要である。
まとめ
上顎の欠損部と歯根間にMicro-implantsを埋入し、固定源にすることで上顎歯列弓のDistalizeを行うことが可能であった。そして、良い治療結果のためには、解剖学的知識やMicro-implantsの特性について理解することが重要である可能性が示唆された。