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矯正治療; 下顎前突症の症例報告

カテゴリ:T.A.D.

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

The use of temporary anchorage devices for orthodontic treatment of high-angle Class III malocclusion in a patient with impacted upper canine teeth

Yuka Murata, Ayaka Oka, Seiji Haraguchi, Takashi Yamashiro
Orthodontic Waves. 2018 Sept; 77(3): 189-195.

 

緒言

 Class IIIの治療戦略としては、オトガイの突出感を改善し、顔面高を増加させることにある。
また、上顎前歯の唇側傾斜と下顎前歯の舌側傾斜(Dento-alveolar compensation)を認めるが、
これらは、しばしば側貌にとって望まない変化になりえる。
 さらに、上顎の劣成長は叢生を惹起する。
上顎の重度叢生もしくは先天性欠如が認められる場合は、下顎の歯の抜歯を行わなくてはならない。
しかし、下顎の抜歯に関して、そのスペース閉鎖や、空隙閉鎖時における下顎前歯のトルク コントロールが困難である。
 本文献は、High angle Class IIIの患者さんにおけるカモフラージュ治療を行ったCase reportである。

対象

 13歳6か月の女の子で、叢生と上顎両側犬歯の埋伏を主訴に来院した。
成長において、身長の伸びが止まり、12歳で初潮を迎えていた。
また、手根骨のレントゲン写真において、3番目の指の遠心指骨が癒合していたことから、ピークは過ぎたと判断した。

現症

・側貌はConvex type
・オトガイの後退感と下唇の突出感、浅いオトガイ唇溝を認める
・口唇閉鎖不全を認める
・顔面高が長い
・上下顎歯列に叢生を認める
・上顎両側乳犬歯の晩期残存を認める
・臼歯関係は両側Class III
・Over jet: +1.8mm
・Over bite: -0.6mm
・Spee彎曲: 3.0mm
・歯冠の濾胞性嚢胞を伴う上顎両側犬歯の水平埋伏を認める
・ANB: 1.5°でSkeletal Class I
・上顎骨の位置と形態に問題は認められない
・Go-Me: 74.1mmで下顎骨体が長く、FMA: 41.8°で下顎下縁平面の急傾斜を認める
・SNB: 75.9°で、下顎の位置に問題は認められない
・U1-SN: 108.7°で上顎前歯の傾斜は平均的、L1-Mp: 80.6°で下顎前歯の舌側傾斜を認める。

診断

 Class IIIの症例で、下顎下縁平面の急傾斜を伴うとした。

 治療目的

・側貌におけるConvex、オトガイの後退感、長い顔面高を改善するため、下顎の反時計回り回転を行う。
・両側臼歯関係I級と、下顎前歯の舌側傾斜に対して良好な前歯部被蓋関係の確立を行う。
・上顎両側埋伏犬歯を含めた上下顎歯列のAlignmentを行う。

 今回行った治療法と別の方法として、以下の治療法を考えた。
・オトガイの後退感と長い顔面高を改善するため、上下顎骨の反時計回り回転を伴う外科的矯正治療を考えた。
 しかし、外科的矯正治療を行うほどの大きな問題が骨格にないことから、外科的矯正治療
は好ましくないと考えた。
・上顎両側埋伏犬歯に関して、上下顎小臼歯の抜歯を行い、上顎埋伏犬歯の開窓、牽引を
行う。犬歯は、魅力的な笑顔と機能的な咬合をもたらす上で非常に重要な歯である。
しかしながら、本症例では濾胞性嚢胞が認められることから、もしも犬歯にアンキローシ
が認められる場合、この犬歯を正常な位置に移動させることは不可能である。さらに、患者
さんが開窓を望まなかったため、上顎両側犬歯に関しては抜歯を行う治療計画にした。


治療計画

・上顎両側乳犬歯、上顎両側犬歯、下顎第一小臼歯の抜歯を行う。
・下顎前歯部後方移動と下顎大臼歯の圧下のため、矯正用インプラントを併用し、マルチブラケット装置を用いて上下顎歯列のAlignmentを行う。

 治療経過

・上顎両側犬歯と下顎両側第一小臼歯の抜歯を行った後、上下顎に.022” preadjusted edgewise bracketを装着した。
・矯正用インプラント(Dual-Top, 長さ: 8.0mm, 直径1.6mm)を下顎両側第二小臼歯-第一大臼歯間に埋入した。
・LevelingとAlignment後、矯正用インプラントを顎両側第二小臼歯に連結し、下顎前歯部のEn-massでの後方移動を行った。
・動的治療期間は40ヵ月で、保定はBeggタイプを用いて行った。

治療結果

・Straight typeで調和のとれた側貌になった。
・下顎は、わずかな成長とオートローテーションが認められた。
・下顎臼歯は1.3mm圧下され、FMAは41.8°→ 37.4°になった。
・下顎前歯は7.5°舌側傾斜、2.9nmm圧下され、Over jetは+1.8mm → +4.4mmになり、
 Over biteは-0.6mm → +2.3mmになった。
 また、下唇の突出感は改善された。
・Ar-Meは113.0mm → 117.4mmになった。
・下顎大臼歯の前後的な位置は変わらなかったが、上顎大臼歯が4.8mm近心移動したことにより、
 両側臼歯関係I級が確立された。
・上顎の水平埋伏していた両側犬歯は抜歯を行い、両側第一小臼歯を本来の犬歯の位置に配列した。
・保定2年においても、安定した咬合と調和のとれた顔貌は維持されている。


考察

・通常、Class IIIのカモフラージュ治療は、前歯部被害関係の確立のため、上顎前歯の唇側傾斜と下顎前歯の舌側傾斜の両方もしくは片方と、オトガイの突出感の改善のため、下顎の時計回りの回転を行う。
 しかしながら、この下顎の反時計回り回転は、前歯部開咬、顔面高の増大を惹起し、これは、顔面高の長いClass IIIの患者さんにとっては好ましくない変化である。
 今回の症例では、B点の前後的な位置は正常であるものの、Class IIIで下顎骨体長が長く、Hyper divergentであることでcompensateされているが、前歯部は開咬傾向である。
 そのため、治療計画は「軟組織の規範」に基づき、オトガイの後退感を伴うConvex typeの側貌に対し、下顎の反時計回りの回転を行うことにした。しかし、これは、Class IIIの治療戦略とは矛盾するものである。
 本来であれば上下顎外科的矯正治療が1番に考えられるが、今回は、矯正用インプラントを用いることで、大臼歯の圧下と下顎前歯の後方移動を行うことにした。
 上記の治療計画において、Vertical controlが非常に重要である。
 大臼歯の圧下と近心移動により下顎の反時計回り回転が生じ、オトガイが前方移動する。
 下顎大臼歯を1mm圧下するとオトガイは3mm前上方に移動すると報告されている。
 また、High angle症例において抜歯を行うことで、挺出をしないで大臼歯が近心移動すると、「楔効果」により、下顎の反時計回り回転が生じるということも知られている。
 今回の症例において、セファロの重ね合わせから、下顎大臼歯が1.3mm圧下され、上顎大臼歯の4.8mm近心移動が認められた。その結果、Pogonionが5.0mm前方移動されており、側貌が著しく改善され、オトガイの緊張がない口唇閉鎖も達成することができた。
 そして、下顎の成長も、下顎の前方移動に有利に働いた。
・下顎の反時計回り回転は、顔貌における垂直的な比率の改善に働くが、Over jet の減少、下唇の反転と突出を生じやすいが、これらは、下顎前歯の後方移動によって防ぐことができる。
また、矯正用インプラントを用いることで、下顎歯列全体の遠心移動を効果的に行うことも可能である。
 この「下顎歯列全体の遠心移動」と同時に、矯正用インプラントにより下顎前歯を圧下することで、
Spee彎曲を是正する際に生じる大臼歯の挺出を防ぐことが可能である。
 今回の症例では、セファロの重ね合わせにより下顎前歯が圧下とともに最大の後方移動(4.0mm)がなされていた。これにより、下唇の突出感が改善されていた。
・埋伏犬歯において、当該歯の抜歯と、小臼歯の抜歯を行い、開窓、牽引によりAlignmentを行うという2つの治療計画が考えられ、一般的には後者が望ましいと考えられる。
 犬歯の抜歯を行うという治療は、審美的、機能的な咬合を考えると結果が損なわれてしまうため、めったに行わない。
 過去の研究においては、「アンキローシスしている場合」、「埋伏の程度が重度で、牽引が非常に困難な場合」、「根吸収や病的変化が認められる場合」、「患者さんが矯正治療によるAlignmentを望まない場合」においては埋伏犬歯抜歯を行うべきであると報告されている。
 埋伏犬歯のAlignmentにおいては、隣接歯との関係、歯軸、咬合平面との距離、年齢などの様々な要因が矯正治療の結果に影響を与える。
 牽引の距離が長く、歯軸が急傾斜しているほど、治療は困難になる。
 今回の症例では、両犬歯ともに、歯根は第一小臼歯部に位置して水平埋伏しており、埋伏の程度は重度であると考えられる。この両犬歯を咬合に参加させるためには、両犬歯を抜歯して矯正治療を行うよりも非常に長い治療期間を要するため、今回の症例ではこの両犬歯の抜歯を行うことにした。


まとめ

 High angle Class IIIで様々な問題を抱えている場合、矯正治療単独では治療が困難であるが、矯正用インプラントを用いることで、効果的で効率の良い治療を行うことができる可能性が示唆された。

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