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矯正治療; 歯と接着剤の性質について

カテゴリ:Debond

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Early versus delayed rebonding of orthodontic brackets.

Prog Orthod. 2012 May;13(1):17-22. 

Ahrari F, Poosti M, Akbari M, Sadri K.

 

緒言

 ブラケット装着の際、エッチングを行うことでレジンは歯の表面の深さ5-10μmまで侵入し、170μmのレジンタグを形成する。
 そして、Debond後も微細なレジンタグがエナメル質内に残ることが知られている。
エッチングされたエナメル質表面は、再石灰化が開始することにより2日間で元に戻り、完全に再石灰化されるには3ヵ月を要する。
 そこで、本研究では、早期にRe-bondを行った場合と、遅らせてRe-bondを行った場合でのブラケット装置の剪断抵抗力(SBS)を調査した。

方法

 68本の小臼歯について最初にDebondを行った後にSBSを測定し、以下の4つのグループにランダムに振り分けた。
・Group 1. 接着剤を低速でラウンドバーにて除去し、すぐにRe-bondoを行い、SBSを測定した。
・Group 2. 接着剤を低速でグリーン ラバー ホイールにて除去し、すぐにRe-bondoを行い、SBSを測定した。
・Group 3. 接着剤を低速でタングステン カーバイトバーにて除去し、すぐにRe-bondoを行い、SBSを測定した。
・Group 4. 接着剤を低速でタングステン カーバイトバーにて除去した後、1ヵ月間放置した後Re-bondoを行い、SBSを測定した。

結果

・Group 1でのRe-bond時のSBSは、有意に減少していた。
・Group 2、3でのRe-bond時のSBSは、1回目のものと比較して有意差が認められなかった。
・Group 4はGroup 2、3と比較して有意差が認められなかった。

考察

・臨床家の中には、脱落したブラケットを同歯に再度装着してもその日に脱落してしまった場合、接着剤を除去し、エナメル質の回復を次回の予約時まで待ってブラケットを再装着することがよいという考えもある。
 しかし、本研究では、その考え方は支持されなかった。
 Group 4において、Debond時とRe-bond時とでSBSがわずかに増加していた。
しかしながらこの2つで有意差は認められなかった。
このため、エッチング後のエナメル質表面や、機械的なエナメル質表面の摩耗はSBSに劇的な影響を与えるとは考えられなかった。
・今回の研究では、異なる種類のバーを用いて接着剤の除去効果やSBSについて調査した。
 SBSのDebond時とRe-bond時とで群間の有意差は認められなかった。
しかしながら、低速のラウンドバーを用いた場合のSBSは有意に減少していた。
 多くの臨床家において「エナメル質表面の摩耗を惹起させることなくレジンの除去が可能である」と考えられているラウンドバーは、Debond後のレジン除去には効果的でないと考えられる。
・グリーン ラバー ホイールを使用したものとタングステン カーバイトバーを使用したものとでは、Debond時とRe-bond時のSBSに有意差は認められなかった。
 一方、過去の研究においては、ソフレックス デイスクと低速のタングステン カーバイトバーはレジン除去後のエナメル質表面を粗造にし、ブラケットの接着強さを増加させることが出来ると報告されている。
 また、エッチング後に低速のタングステン カーバイトバーを用いることで、Debond時のSBSと変わらないか、むしろ最初よりも強い接着強さが認められたとの報告もなされている。
 しかし、Re-bondの1回目以降のSBSはDebond時のSBSと比較して有意に減少するとの報告もなされている。
・SEM画像による評価では、フィニッシング バーを用いても接着剤の残遺物がエナメル質内に包埋されており、エナメル質表面の粗さがと接着強さが減少すると報告されている。
 今回の研究では、すべての群のエナメル質表面で微小亀裂が認められた。
 そして、低速のタングステン カーバイトバーを用いることで、エナメル質表面の接着剤を効果的に除去することはできたが、どうしても表面にわずかな傷はついてしまった。
 これは過去の研究の見解と同様であり、タングステン カーバイトバーを用いることで、効果的にレジンを除去することは可能だが、低速でも高速でも、CEM画像にてエナメル質表面の微細な傷やわずかな欠損が見られたとされている。
・グリーン ラバー ホイールによる除去はCEM画像でもほかのものと比較してエナメル質の微小亀裂がみられず、SBSも良い結果であったが、レジン除去に多くの時間を要してしまう。

まとめ

 接着剤の除去において、ラウンドバーを用いることは非効率であり、Debond時に用いることは勧められない可能性が示唆された。

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