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矯正治療; 歯についた接着剤の除去後の歯の状態について

カテゴリ:Debond

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

 

Effect of orthodontic debonding and adhesive removal on the enamel – current knowledge and future perspectives – a systematic review.

Med Sci Monit. 2014 Oct 20;20:1991-2001.
Janiszewska-Olszowska, Szatkiewicz, Tomkowski, Tandecka, Grocholewicz.

 

緒言

 矯正治療において、動的治療終了後におけるDebond時のレジンの残留は、プラークの蓄積や着色の原因である。
 この際、完全にエナメル質表面へのダメージがない状態で余剰レジンを除去することは不可能である。
この理由は、エッチングにより、接着剤がエナメル小柱の内部にまで浸透することと、エナメル質の硬度(Mohs scaleで約5である)が接着剤を除去するバー(Quartz、Aluminium、Carbon steel、Zirconium、Oxide 7、Tungsten carbite 8)より軟らかいいことが挙げられる。
 エナメル質最表層は、硬く、フッ素も豊富であるため、できる限りDebond時には残すことが望ましい。
さらに、Debond後のエナメル質はできるだけ滑沢にすることが良く、深いひっかき傷がついてしまうと、歯ブラシでは物理的に磨けない箇所が発生する。
 本文献は、ヒトにおいてメタルブラケット除去後のDebondにおける医原性のエナメル質へのダメージについてのSystematic reviewである。

 

文献検索法

・Pubmedを用い、「orthodontic adhesive removal」、「Orthodontic debonding」、「orthodontic clean-up」をキーワードにして検索を行った。
・グレーの文献においては、GoogleとGoogle Scholar(2013年9月23日まで)にて検索した後、Dentistry and Oral Sciences(2013年9月27日まで)、Scopus(2013年10月3日まで)、Cochrane(2013年10月7日まで)にて再度検索を行った。
・言語による制限は設定しなかった。
・まず、タイトルと抄録においてエナメル質表面の粗造度もしくはDebond後のエナメル質の喪失と、それに引き続く接着剤の除去についてかかれているものを採択した。
・今回の文献では、Debondと接着剤の除去における累積的な効果を調査するものであるため、エナメル質のレジン除去における文献は除外した。
・一貫性を保つため、セラミックブラケット装置以外を使用しているものの文献を採択した。
・脱灰、再石灰化、エナメル質の漂白については、処置をしていない対照群の歯が設けられている文献のみ採択した。
・エナメル質の清掃について、すべての方法を採択した。
・評価の適格性については、2人の評価者によって行われた。

 

 結果

・「orthodontic adhesive removal」というキーワードについて、最初に785個「Orthodontic debonding」というキーワードについて、最初に762個、「orthodontic clean-up」というキーワードについて、最初に23個の文献を採択し、最終的に41個の文献が採択された。
・接着剤の除去については様々な道具が使用されていたが、一番多かったのはTungsten carbite burであった。
・研究の対象歯は、主に小臼歯であった。
・それぞれの研究において、評価法が定量的に均一でなかったため、Meta-analysisを行うことはできなかった。
・測定法や結果に大きなばらつきがあったため、文献間での比較が困難であった。
・Gwinnettらの文献では、Tungsten carbite bur と比較してGreen rubber wheelがより効果的で、エナメル質表面の破壊も少なく、表面の浅い傷については、研磨ペーストで容易に取り除くことができたと報告している。
・7種類のDebond法を比較したZarrinniaらの文献では、Carbite burが接着剤の除去に効果的であり、その後エナメル質表面をSof-lex discとRubber cupにZircate pasteを付けて磨くことが良いとされていた。
・SEMを使用して定性的に評価した文献において、Gwinnettらの文献では、Green rubber wheelとTungsten carbiteを比較すると、前者の方がエナメル質表面に与える影響が少なかったとしていた。
 この結果は、Zachrissonらの文献と逆であったが、これは、エナメル質表面における評価法の違いであると考えられる。
・エナメル質表面への損傷を指標にて評価したAlessandre Bonettiらの文献では、8歯がGrade 0、13歯がGrade 1、3歯がGrade 2、0歯がGrade 3であり、Tungsten carbite burを用いても、臨床的に問題ないが、もともとのエナメル質表面の状態に回復するということはなかったとしている。
・手用の方法を用いて定量的に評価した研究において、ほとんどでTungsten carbite burが用いられており、エナメル質の損傷がみられたとしており、Eliadesらの文献では、それは不可逆的であったとしている。
・Eliadesらの文献では、ポリッシング後でも溝が残ってしまい、Ahrariらの文献では、最終的なポリッシングでも、初診の状態までエナメル質の回復をすることはできないと報告している。
・原子間力顕微鏡を用いたKaranらの研究によると、Tungsten carbiteよりもComposite burを用いた方がエナメル質表面が滑沢であったが、接着剤の除去により長い時間を要したとしている。
また、Fiber-reinforced composite burの特徴として、Tungsten carbide burと異なり、切削することによりFiberが摩耗し、それが注水によって流され、常に新しいFiberが出現するものであるとしている。
・エナメル質損失量について、Fitzpatrickらの文献では、接着剤の除去により55μm、Zachrissonらの文献では5-10μm、Shamsiらの文献では、Tungsten carbite burを用いると、光重合型の接着剤の場合22.8μm、プレコート ブラケットの場合50.5μmであったと報告されている。
・Alessandriらの文献では、Diamond burを用いるとエナメル質表面を損傷してしまうため、接着剤の除去には適さないとしており、最近のAhrariらの文献でも、Diamond burとEr: Yag laserは重度のエナメル質への損失が認めらることから、適切ではないと報告されている。

 

 考察

・ブラケット装置除去後のエナメル質の損傷、粗造や小窩については、エッチング時によるものと、切削とそれに引き続くポリッシングによるものの2つの側面から考える必要がある。
 回転式の道具によるエナメル質の摩耗については、接着剤の範囲と接着剤の成分、回転速度、エナメル質表面への加圧の程度などが関係する。
そして、後者の場合は術者によるものである。
・可視的にそれぞれの研究間の比較をすることは、SEMを用いたとしても完全に客観的ではないため、難しいと考えられる。
また、それぞれの研究によってさまざまな指標が使用されているが、これらは一般的なものではないことも一因である。
・エナメル質表面の損傷は、エナメル質の小柱構造が露出することにより脱灰の感受性が高くなることで、エナメル質の耐久性の減少につながる。
そのため、エナメル質最外層は深部と比較してより硬く、再石灰化もしやすいため、可及的に保護することが望ましい。
 一方、エッチングの効果は50μmまで達する。
このため、接着剤を完全に除去するためには、やはりエナメル質表面を一層除去しなくてはならないと考えられる。
・接着剤の除去によるエナメル質表面の粗造化は、着色の原因になり得る。
また、Raが0.2μm以下の場合、細菌の接着が起こらないため、表面はより滑沢にすることが望ましいと考えられる。
・Debond時のエナメル質の損傷を手用の計測法にて行った研究では、その深さと量がさまざまであった。
これは、方法論の難しさをものがたっている。
 これらの研究では、プロフィロメトリーが用いられていたり、レーザースキャン、プラスチック モデル、抜去歯、エポキシ樹脂、3Dスキャナーなどが用いられていた。
 Fitzpatrickらの文献では、シリコーン印象を用いてもその精度は-2.5μmから+3.5μmであり、これに石膏を注ぐことで、さらにエラーが生じてしまうとしている。
また、実際はDebond時の唾液も大きな影響を与えるため、in vitroの研究ではこれが再現できないことと、倫理的、科学的に未処置の歯は小臼歯以外に使用することが困難であるが、エナメル質の厚みと構造は歯種により異なることも指摘している。
このため、それぞれの歯種における3次元的な接着剤の残遺やエナメル質の損傷における体積評価などの詳細な定量分析は、医原性のエナメル質の損傷を評価するのに非常に優れた方法であると考えられる。

 

まとめ

・マルチブラケット装置の除去により、エナメル質には不可逆的な損傷を与えてしまうことは避けられないことである。
・Debond時に、Arkansas stone、Green stone、Diamond bur、Steel burは用いるべきではない。
・Tungsten curbite burは、Sof-Lex disc、超音波、手用のインスツルメント、Rubber、Composite burと比較して、より早く、効果的なDebondが行える。
しかし、Tungsten curbite burはエナメル質表層をかなり除去してしまうことと、表面が粗造になってしまうため、Sof-Lex discやPumice slurryによるポリッシングは必要であると考えられる。
・Debond時において完全に接着剤の除去ができ、かつエナメル質の損傷を最小限に出来る方法については、さらなる研究が必要である可能性が示唆された。

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