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矯正治療; 成長期の子供の上顎の前方牽引について

カテゴリ:R.P.E. + Face Mask

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

 

Postpubertal assessment of treatment timing for maxillary expansion and protraction therapy followed by fixed appliances.

Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2004 Nov;126(5):555-68.

Franchi L, Baccetti T, McNamara JA.

 

緒言

 矯正治療として、成長期のClassIIIにおける急速拡大とフェイスマスクを併用する方法(RME/FM)は、上顎前歯と上顎第一大臼歯萌出後の6-8歳に行われることが推奨されている。
 この理由は、前歯部交叉咬合などの上顎の成長抑制因子になり得るものを除去できるからである。
 以前の研究では、63人の子供を4-7歳、7-10歳、10-14歳の3群に分けてRME/FMの治療効果を検証した結果、4-7歳の群に一番治療効果が認められたという報告がなされている。
また、9-12歳に治療するよりも3-9歳に治療を行った方が有意な効果が認められたというものがあり、これらの2つ研究では、すべての群に治療の効果は認められたが、若い群でよりその効果があったとしている。
しかし、これとは反対に、いくつかの文献では、RME/FMの効果に年齢は関係ないとの報告もされている。
 そこで、本研究の目的は、RME/FMの最適な治療時期を見極めることである。

対象と治療法

 50人のClassIII患者さんで、中切歯・第一大臼歯が萌出した33人(ETG)と、犬歯・小臼歯が萌出した17人(LTG)とし、矯正治療として、RME/FM後にマルチブラケット装置を用いた動的処置を行った。
 治療の平均期間はETGで7.2年、LTGで4.5年だった。
 治療の方法は、急速拡大装置を、上顎の必要な拡大量が達成されるまで1-2回/日回転させる。
フェイスマスクは拡大中もしくは拡大直後から使用し始め、片側300-500gの顎整形力を用い、使用時間は14時間以上/日とた。フェイスマスクの治療目標としては、Over jetが「+」になるまで使用した。
 また、対照群として、ClassIIIで治療を行っていないETGの萌出ステージと対応した群14人と、LTGの萌出ステージと対応した群10人を設けた。

評価法

 治療開始前(T1)とII期治療終了時(T2)で、頸椎による成長評価(CVMS)がIV-Vの段階においてL-Rを撮影し、治療の効果を確認した。
 T1とT2の重ね合わせの方法は以下の通りである。
・頭蓋底の重ね合わせ(SN平面+PTM)により、上下顎骨の移動量と方向を評価する。
・上顎の重ね合わせ(口蓋平面+A)により、上顎に対する上顎歯列の動きを評価する。
・下顎の重ね合わせ(下顎管+オトガイ部+シンフィシスの構造)により、下顎に対する下顎歯列の動きを評価する。

結果

・LTGと比較して、ETGの方がより上顎骨の前方移動と下顎骨の成長抑制が達成されていた。
・ETGにおいて、対照群と比較して下顎の成長量が少なく(-3.6mm/7年)、顎角も小さくなっていた(-2.6°)。
 垂直的な変化については、有意差は認められなかった。
・LTGでは、上顎前歯の前方移動(2.1mm)と下顎前歯のupright(1.7mm)により2.1mmのOver jetが達成された。
・ETGにおいて、対照群と比較して下顎の成長量が少なく(-4.8mm/4.5年)、顎角と垂直的な変化に有意差は認められなかった。
・頭蓋顎顔面の良好な治療結果は、LTGよりもETGでより認められた。
・対照群において、ETGと対応した群では7年間で7.5mm、LTGに対応した群では4.5年間で5mm上下顎の前後的なズレが認められ、ClassIIIの咬合関係は経年的に悪化していた。

まとめ

 本研究より上顎の前方成長促進と下顎の前方成長抑制のためには、混合歯列後期でも効果はあるが、混合歯列前期の方がより望ましいことが示唆された。
 そして、頸椎による成長評価において、ETGはCVMD Iであったのに対し、LTGはCVMS IIであった。

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