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矯正治療; 成長期の子供の上顎の成長のコントロールについて

カテゴリ:Face bow

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Dental and orthopedic effects of high-pull headgear in treatment of Class II, division 1 malocclusion.

Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1992 Sep;102(3):197-205.
Firouz M1, Zernik J, Nanda R.

 

緒言

 フェイスボウの使用において、Cervical pullは、力線が上顎抵抗中心の下を通るため、歯冠を遠心に、歯根を近心に移動させるモーメントが生じる。
また、大臼歯の挺出を引き起こし、結果として下顔面高が増加する。
そして、この遠心傾斜した大臼歯は、長期安定性があるのかという問題がある。
 そこで、本研究では、High pullフェイスボウを使用し、骨格ならびに歯の動きを検証した。

 

対象

 9.5-12.5歳で、3.0-7.0mm Class IIでdiv. 1の患者さん12人を実験群とし、すべての患者さんに12時間/日、片側500gmのHigh pullフェイスボウを6ヵ月間使用してもらった。
 フェイスボウの力線は、上顎第一大臼歯の抵抗中心と考えられる上顎第一大臼歯根分岐部の位置をレントゲンにて同定し、そこを通るようにした。
インナーボウは咬合平面と平行にし、アウターボウは第一大臼歯を越えない長さに調節した。
また、大臼歯の捻転の予防、左右の対称性と歯列弓幅径の維持のため、0.8mm線によるパラタルバーを併用した。
 対照群として、年齢と程度が同様で治療を行わなかった12人を設定した。

分析方法

 治療開始時(T0)と治療開始6ヵ月後(T1)でセファロを撮影し、両群の比較を行った。
 重ね合わせの方法は、頬骨弓、眼窩、翼突口蓋窩を用いた。

 

結果

・T1において、実験群では上顎大臼歯の遠心移動(平均2.56mm)が認められ、対照群では上顎大臼歯の近心移動(平均0.23mm)が認められた。また実験群では0.54mmの圧下が認められ、対照群では0.23mmの挺出が認められた。
・実験群の大臼歯の移動様式はほぼ歯体移動であったが、正確には歯根は歯冠よりもわずかに遠心に位置していた。
・上顎について有意な骨格の変化が認められた。
T1での上顎の前後的な成長(FH平面を基準にしたANS-PNS)において、実験群は対照群と比較して0.5mm減少していた。
前後的には、実験群は上顎がA点で後方に平均0.33mm移動しており、対照群は平均で0.5mm前方に移動していた。
これより、フェイスボウは前方成長の抑制をするだけでなく、顎整形力による上顎の後方移動の効果もあった。
・実験群では、対照群と比較してANSとPNSで下方への成長量が1/2であった。
・両群において、口蓋平面角、下顎下縁平面角、上顎突出度、軟組織突出度、その他の軟組織の評価項目に有意差は認められなかった。

考察

・上顎歯列すべてにブラケット装置を装着しなくても、上顎に対する顎整形力を作用させることが可能であった。
・過去の研究では、片側300-400gmの力でもA点とANSが3年間で2.0mm遠心移動したとされている。
また、片側600-1,000gmの力を用いると、1年以内にA点とANSが4.0mm遠心移動していたと報告されている。
さらに、この600-1,000gmを長期間使用することで大臼歯が4.0mm圧下したとしている。
・実験群において、ANSとPNSの下方成長は同程度抑えることができたため、口蓋平面角に変化が認められなかった。
High pullフェイスボウを使用した別の研究では、口蓋平面角は1.04°/年しか変化しなかったというものや、治療を行わなかったものでは口蓋平面角が1.1°変化したというものが報告されている。
・本研究において最も臨床的に大事なことは、大臼歯が2.56mm遠心移動され、咬合関係がClass IIからClass Iになったことである。
過去の研究によると、2.3mm Class IIの患者さんに対してフェイスボウを終日4ヵ月間使用させたところ、臼歯関係が改善したという報告がなされている。
また、3.0mmの遠心移動に2-3年かかったというものや、5-16ヵ月で達成したという報告もなされている(片側300-400 vs 600-1,000gm)。
今回の研究では、そこまで大きな力を用いないで、かつ6ヵ月間とういう短期間でこれと同程度の結果を得ることができた。
そして、歯体移動がなされていたことも重要である。
歯冠と歯根が遠心移動しており、通常の萌出状態では大臼歯が近心傾斜しているということを考慮したとしても、歯冠よりも歯根の方が平均2.5°遠心移動していた。
・上顎第一大臼歯の抵抗中心を調査した研究では、その位置は根分岐部よりもわずかに低位にあると報告されている。本研究では、根分岐部を通るように力線を調整したため、歯根の遠心傾斜がなされたと考えられる。

 

まとめ

 以前の研究ではより強い力をもってしなければ成し遂げられなかったが、今回の研究ではそこまで強い力を用いなくても上顎の前下方の成長抑制と上顎の遠心移動が達成された。

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