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矯正治療; 矯正用アンカースクリューを用いた奥歯の移動について

カテゴリ:Articles

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

 

Group distal movement of teeth using microscrew implant anchorage.

Park HS, Lee SK, Kwon OW.

Angle Orthod. 2005 Jul;75(4):602-9.

 

緒言

 大臼歯の遠心移動において、顎内装置を用いると、反作用の力により前歯が前方移動してしまい、大臼歯の遠心移動後にこの前歯部の後方移動を行わなくてはならない。
この際、大臼歯の近心移動が生じることもあり、そうなると治療期間が延長してしまう。
 下顎の叢生を伴うLow angle症例では、抜歯をするとOver biteが深くなってしまう可能性がある。
一方、非抜歯により前歯部をFlareさせると、側貌に悪影響を与えてしまう可能性がある。
もしも非抜歯にて治療を行う場合は、下顎大臼歯の遠心移動が有効である。
この方法として多く報告されているのはLip bumperを用いるものである。
しかし、Lip bumperは大臼歯の遠心移動が生じるが、前歯部の唇側傾斜も生じてしまう。
 そこで、本研究では、Microscrew implantsを用いて上下顎大臼歯の遠心移動を定量的に評価することを目的にした。


対象

 非抜歯による矯正治療(1人は、上顎両側第一小臼歯の抜歯を行い、下顎大臼歯の遠心移動を行った)を行っている13人の患者さん(平均年齢: 17.9±5.7)で、9人は下顎歯列弓の遠心移動のために、下顎にMicroscrew implantsを埋入し、2人は上顎にMicroscrew implantsを埋入し、残りの2人は上下顎にMicroscrew implantsを埋入した。

遠心移動の方法

・すべての患者さんに.022” Straight bracketを用いた。
・遠心移動の力は200gとし、上顎にはNiTi closing coil、下顎にはElastometric threads(Super thread)を用い、Microscrew implantsから犬歯もしくは小臼歯に力をかけた。
・遠心移動時に使用したワイヤーは、上顎は.016×022” TMAもしくはSS、下顎は.018x.025” TMAもしくはSSとした。
・遠心移動の力線について、上顎は後上方向、下顎は後下方向とした。
・矯正用インプラントは、Miniscrews(Martin; Kalamazoo)が2本、Microscrews(Osteomed Co; Dallas)が22本、Microscrew implants(Dentos; Daegu City)を6本使用した。
・矯正用インプラントの埋入部位について、上顎においては、4本のMicroscrew implantsを第二小臼歯-第一大臼歯間頬側に、2本を第一大臼歯-第二大臼歯間口蓋側に埋入した。
 下顎においては、16本を第二大臼歯の遠心に、2本のMicroscrewと2本のMiniscrewをレトロモラーパットに、2本のMicroscrewを第一大臼歯-第二大臼歯間に埋入した。
 また、下顎第二大臼歯遠心とレトロモラーパットに埋入したものにおいては、軟組織によって被包化する可能性があるため、矯正用インプラント頭部とElastometric threadsを結紮線にて結紮した。

セファロ分析と模型分析

・遠心移動開始前3ヵ月以内と動的治療終了時にセファロ撮影を行った。
・上顎の歯の移動に関して、水平基準線はPterygoid vertical plane(PTV)、垂直基準線はPalatal plane(PP)とした。
 下顎の歯の移動に関しては、水平基準線はCentroid point of teeth to the mandibular lingual cortex(MLC)、垂直基準線はSupermposition on the mandibular plane(MP)とした。
・模型にて、術前と術後における上下顎のArch length discrepancyと臼歯間幅径を測定した。

結果

・Microscrew implantsの成功率は90%(27/30のMicroscrew implantsが矯正力適応時に安定していた)であった。
 脱離した3本のうちの2本は右側で、1本は左側であった。
・Microscrew implantsを使用した期間は12.3±5.7ヵ月であった。
・2人の第二大臼歯遠心に埋入した患者さんにおいて軟組織による被包化などの軟組織の問題が認められた。しかし、炎症が認められた患者さんはいなかった。
・上顎の歯の移動において、第一小臼歯と第一大臼歯は有意に遠心移動がなされていた。
また、従来の遠心移動装置にみられるような前歯部の反作用的な動きは認められなかった。
それとは逆に、臼歯部だけでなく前歯部も遠心傾斜が認められたが、これらの移動量に有意差は認められなかった。
・下顎の歯の移動において、臼歯部の遠心傾斜と前歯部のUprightならびに遠心移動が認められた。
・下顎大臼歯遠心移動時に、Spee curveの是正のため、第一小臼歯では挺出が認められた。
・上下顎の臼歯間幅径については、術後に有意な差は認められなかった。

考察

・本研究では、他の研究と比較して遠心移動の動きが遅かった。
しかしながら、全体的な治療期間はそれらの研究と同程度か、むしろ短かった。
この理由として、他の研究ではまず臼歯部の遠心移動を行った後に前歯部の遠心移動を行っていたが、本研究では歯列弓を一塊にして遠心移動したからであると考えられる。
・顎内装置を用いた臼歯部の遠心移動では、小臼歯や前歯部の近心への相反的な移動は避けられない。
つまり、大臼歯と小臼歯の遠心移動を行って空隙をつくった後、この前歯部の遠心移動を行わなくてはならない。
この時の固定源として、遠心移動を行った大臼歯部を用いなくてはならず、また、前歯部にはジグリングの力が生じてしまう。
 一方、Microscrew implantsを用いた方法では、前歯部にこのような反作用の力は働かない。
実際、大臼歯の遠心移動時に前歯部においても遠心移動が認められた。
・上顎において、第一小臼歯と第一大臼歯において有意に遠心移動が認められ、第二大臼歯においてより多くの遠心傾斜が認められた。
この結果から、中間にある歯の方がより歯体移動しやすいと考えられる。
そしてこの傾向は、下顎においても同じであった。
・上顎において、臼歯部は遠心移動とともに圧下が認められた。
これは、Microscrew implantsによる牽引方向で、垂直的な成分が働いたためと考えられる。
 しかしながら、下顎においては遠心移動時に挺出が認められた。
これについて、本研究ではn数が少なかったため、この動きの理由を考察するためには、より多くのn数を用いた研究が必要であると考えられる。
・従来の遠心移動装置を用いた場合、臼歯部の遠心移動による楔効果により、下顎下縁平面が開大してしまう。
 一方、Microscrew implantsを使用した遠心移動では、下顎下縁平面は開大するどころか、閉じる方向へ移動していた。
この理由として、臼歯部が圧下したためと考えられる。
この圧下力を作用させるためには、Microscrew implantsの頭部の位置とエラスティックの結ぶ位置が重要である。
開咬の患者さんに対してMicroscrew implantsを用いて大臼歯の圧下と遠心移動を行った過去の研究によると、治療により大臼歯が圧下したため、Vertical dimensionが改善した。
しかし、後戻りが認められたと報告されている。
これは、咀嚼筋の筋線維の長さが変化したためと考えられる。
・Microscrew implantsの成功率を調査した過去の研究では、直径が1mmのものは0%(0/10)、1.5mmのものは83.9%、2.0mmのものは85.0%であったと報告されている。
しかしながら、別の研究では、直径2.0mmのもの6本と、直径1.2mmのもの174本において15.6ヵ月利用したところ、ともに成功率は93.3%であった。
この2つの研究結果は、全く異なるものであった。
この理由は明確でないが、よくデザインされ、n数の多い研究が必要であると考えられる。
・下顎大臼歯の遠心移動において、第二大臼歯の歯冠に軟組織が被ることにより、歯冠周囲炎を生じることがある。
このため、治療計画立案時に臼歯部遠心の利用できるスペースに関して十分にチェックする必要がある。
 また、上顎に関して、第二大臼歯がLine of occlusionに並んでいない場合、遠心移動は避けるべきである。
この理由として、Microscrew implants埋入時に歯根に対する有害な変化を識別することができず、患者さん自体も痛みや不快感がないと報告されているからである。
・片側200gの力は、大まかに計算すると1歯あたり30gの力がかかっていることになる。
これは、通常の矯正力と比較して、非常に弱い力である。
 弱い矯正力によるゆっくりな歯の移動は、早い歯の移動と比較してより生理的であると考えられる。

まとめ

 上顎臼歯部歯根間と下顎のレトロモラーパットへのMicroscrew implantsの埋入により、歯列弓全体の遠心移動を行うことが可能であった。
これにより、治療期間の短縮や、前歯部ジグリングを避けることができる可能性が示唆された。

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