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矯正治療; 歯周治療と矯正治療の関係性について

カテゴリ:Perio

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Intrusion of migrated incisors with infrabony defects in adult periodontal patients.

 

Am J Orthod Dentofacial Orthop. 2001 Dec;120(6):671-5.
Cardaropoli D1, Re S, Corrente G, Abundo R.

緒言

 いくつかの研究では、矯正力は、歯周組織に炎症を生じさせ、良くない効果をもたらすと報告されている。
 しかし、適切な歯周処置とメンテナンスが行われれば、矯正力を加えてもさらなる骨吸収やアタッチメント ロスは生じないとも報告されている。
そして、Alignmentが行わることによりプラークコントロールが良好になり、歯周組織の改善を行うことができるとも考えられている。
 もしも骨縁下ポケットと炎症が認められる歯に矯正力を加えると、結合組織性付着を破壊してしまうことが実験的に報告されている。
病的な移動と挺出を生じている歯に圧下力を加えると、歯冠長と辺縁の骨レベルの改善を行うことが可能であることがしられている。
 そこで、本研究では、矯正治療と歯周治療を併用して、重度歯周病による骨縁下ポケットが存在し、挺出している歯に対する治療の効果を検証した。

対象

 33-53歳の10人の患者さん(男性2名、女性8名)で、すべての患者さんに重度歯周病に対する治療を行った。
その他の選択基準は以下の通りである。
・全身疾患が認められない。
・SRPによる治療を行った。
・現在の口腔衛生状態は良好である。
・全顎的なPlaque scoreが15%以下である。
・上顎中切歯に病的な歯の移動と挺出が認められる。
・レントゲン検査により骨縁下ポケットを認め、ポケット深さが6mm以上である。

評価項目

 歯周外科処置前の評価項目は以下の通りである。
・Probing pocket depth(PPD)
・Bleeding on probing(BOP)
・Plaque index(PI)
・Dental mobility(DM)

 歯周外科処置終了時と矯正治療終了時にPPDと上顎中切歯のClinical crown length(CCL)を測定した。
また、歯周外科処置前(T0)と矯正治療終了時(T1)にペリアピカルを撮影し、以下の項目を評価した。
・根尖-歯槽骨間距離(MBL)
・骨レベルの最も低下しているところと隣接している最も歯冠側にある骨頂とそこから根までの骨欠損の範囲(BDRD)
・根尖-CEJ間距離(RL)

治療

 歯周外科処置としてフラップ手術を行い、デブライメントを行い、その7-10日後から矯正治療を開始した。
 矯正治療は、.017x.025” TMAによるUtility archを用いて前歯部の圧下と空隙閉鎖を行った。
また、圧下力は、歯周組織の状態に合わせて10-15g/歯とした。
そして、臼歯部には0.36”パラタルバーを併用した。
 矯正治療は平均10ヵ月行い、来院間隔は1回/2週とし、リコールの間隔は1回/3ヵ月とした。

結果

・PPDにおいて、T0では平均7.15mmであったが、T1では平均2.80mmで、有意に減少していた。
・CCLにおいて、T0では平均12.45mmであったが、T1では平均11.40mmで、有意に減少していた。
・MBLにおいて、T0では平均7.05mmであったが、T1では平均9.10mmで、有意に増加していた。
・BDRDにおいて、T0では平均7.51mmであったが、T1では平均3.15mmで、有意に減少していた。
・RLにおいて、T0では平均13.6mmであり、T1では平均13.2mmで、減少はしていたが、有意差は認められなかった。

考察

・T1における2.80mmのPPDは、BOPを認めないことから、歯周組織の健康が達成されていると考えられる。
このことは、レントゲン上で骨欠損の面積が減少したことからも明らかである。
・MBLは骨内にある根の長さを測定することから、圧下の効果を評価することが可能である。
T1において2.05mmの増加を認めたことから、著しい圧下がなされたと考えられる。
 CCLが減少したことからもこのことは明らかであるが、CCLの減少量が1.05mmなのに対してMBLが2.05mmの増加を認めたことから、手術後に歯周軟組織が牽引されたと考えられる。
・RLは、矯正治療による根吸収の有無を判断できる。
この値がT0-T1で変化しなかったことから、根吸収は認められなかった。
 その理由の1つとして、今回用いた圧下力は、弱い持続的な力だったためと考えられる。
・矯正治療により歯根膜細胞の活性化がなされることがしられている。
 今回得られた付着が上皮性のものか結合織性のものかについては非常に興味深いが、組織学的な評価を行わなかったため、はっきりしたことはわからなかった。
・歯周外科後の矯正治療の開始時期は重要であり、術後7-10日の早期に行うことで軟組織が歯冠側に移動し、より効果的であると考えられる。

まとめ

 骨縁下ポケットが存在している病的な歯の移動に対して矯正治療と歯周治療を併用することで、臨床的にもレントゲン上でも著しい改善が認められた。

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