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矯正治療; 下顎前突に対して矯正用アンカースクリューを用いた治療法について

カテゴリ:T.A.D.

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Treatment effects of mandibular total arch distalization using a ramal plate.

Korean J Orthod. 2016 Jul;46(4):212-9. 
Yu J, Park JH, Bayome M, Kim S, Kook YA, Kim Y, Kim CH

 

緒言

 Class IIIの患者さんの治療において、顎離断術を行わず、矯正単独での治療により好ましい側貌を獲得することは、難しい治療のうちの一つである。
 その方法としていくつかのカモフラージュ治療が紹介されている。
 下顎大臼歯の遠心移動についても様々な報告がなされているが、ほとんどは患者さんの協力が必要なものである。
 また、Distal extension lingual arch、Jones jig、Franzulum applianceなどの患者さんの協力を必要としない装置では、傾斜移動や固定源の喪失、前歯部の唇側傾斜などが惹起されてしまう可能性が高い。
 Temporary skeletal anchorage devices(TSADs)はこれらの動きを防ぎながら大臼歯の遠心移動を行うことが可能である。
 Miniscrewの埋入部位において、歯根間に埋入すると、遠心移動時に歯根と干渉してしまう。
そのため、下顎歯列の遠心移動では、レトロモラーパットに矯正用インプラントを埋入する方法が報告さている。
 しかし、Miniscrew単独では、下顎歯列の遠心移動に必要な矯正力に抵抗するには不十分である。
そのため、レトロモラーパット後方のくぼみ(RF)にプレートを設置する方法が報告されている。
この装置を用いると、矯正力の方向が咬合平面と平行に近くなり、また、レトロモラーパットに埋入するため、頬側にMiniscrewを埋入するよりも頬粘膜や可動粘膜への刺激が少ないと報告されている。
 そこで、本研究では、RFにプレートを埋入し(RP)、これを用いて下顎歯列の遠心移動の効果を3次元モデルを用いて評価した。

対象

22人の成人(男性: 11人、女性: 11人、平均年齢: 23.9±5.52歳)で、下顎歯列の遠心移動のためにRPを行ったもの。
選択基準は以下の通りである。
・動的治療開始時の年齢が18歳以上である。
・臼歯関係において、1/2咬頭以上のClass IIIである。
・下顎両側第三大臼歯が先天性欠如もしくはすでに抜歯してある。
・症候群や全身疾患を認めない。

治療経過

・プレートは、下顎枝前縁と頬筋稜の間のレトロモラーパット後方のくぼみに埋入した。
 術式としては、まずフラップ手術を行って骨面を露出し、L-plateを骨表面に合うように調整した。
フックは、第二大臼歯の3mm外側で、頬面溝と遠心面より3mm前方との間に位置するように調整した。
 プレート埋入については、パイロット ドリルを行った後、2本のミニスクリュー(長さ5mm)にて固定し、フックが粘膜の外に位置させた後フラップを縫合した。
 また、前方のフックは、パワーチェーンやクローズド コイルを装着しやすいように咬合面でカットした。このパワーチェーンやクローズド コイルは、アーチワイヤー側は側切歯-犬歯間にフックを装着し、そこに装着することにし、できるだけ咬合平面と平行に力をかけた。
 この矯正力は、プレートのフック-第一大臼歯ブラケット間で片側300gの力がかかるようにし、1回/3週間で交換した。
・プレートは、下顎歯列のレベリングとアライメントが終了した後に埋入し、ワイヤーサイズが.019x.025” SSになった時点で遠心移動を開始し、適切なオーバージェットになった時点で終了した。

評価法

・術前と術後のL-Rを撮影した。
 基準平面はFH平面と、PTを通りそれの垂線であるVFHを用いた。
・遠心移動量の評価として、Mp平面と、Meを通りそれの垂線であるVMpを基準平面にした。
 また、歯冠の評価として大臼歯歯冠の遠心面と中切歯切縁、歯根の評価として大臼歯遠心根尖と中切歯根尖をそれぞれ基準点にした。

結果

・FH平面とVFHを基準にすると、第一大臼歯歯間は3.2mm、歯根は2.0mm遠心移動しており、4.6°の遠心傾斜(傾斜比: 37.5%)が認められた。
 垂直的な移動は認められなかった。
 中切歯は4.2mmの著しい遠心移動が認められ、10.5°舌側傾斜していた。
・Mp平面を基準にすると、第一大臼歯歯冠は2.1mm、歯根は0.8mm遠心移動していた。
 遠心傾斜に関しては有意な値ではなかった。
 中切歯は、4.2mm遠心移動しており、11.2°と有意な舌側傾斜が認められた。
 垂直的には、第一大臼歯は0.77mm圧下しており、中切歯は0.93mm挺出していた。
・骨格的な評価として、Wits appraisalで2.4mmと、有意に改善していた。
 しかし、ANBとSNBでは有意な変化は認められなかった。
 また、下顎下縁平面角においても有意な増加は認められなかった。
・軟組織の評価にとして、上唇突出度としてNasolabial angleに有意な変化は認められなかったが、下唇は2.2mm後退していた。
・オトガイの位置や、上唇と下唇とオトガイの位置の割合に関しては有意な変化が認められなかった。

考察

・中等度Class IIIの治療は、矯正単独もしくは外科的矯正治療のどちらにするか、選択が難しい。
 その中で、TSADsによる大臼歯の遠心移動はカモフラージュ治療の幅を広げるうえで非常に有効である。
 Miniscrewを用いた場合、歯根間スペースの関係上、2-3mm以上の遠心移動は難しいが、プレートを用いることで、その位置を変えることなく遠心移動を行うことが可能である。
 そして、このプレートは、2本のMiniscrewで固定されているため非常に安定しており、大きな矯正力にも抵抗することも可能である。
 Miniscrewを用いるその他の欠点として、頬棚に埋入して下顎歯列の遠心移動を行う場合、咬合平面が回転してしまう。また、下顎は上顎と比較して、より矯正用インプラントの脱落率が高いと報告されている。
・Wits appraisalでは2.4mmと有意に改善していたのに対し、ANBやSNBに変化が認められなかった。
 これ、Witsは咬合平面を基準としており、治療中に個の咬合平面が回転したことにより値が改善したと考えられる。
・下顎の回転により歯列の垂直的な位置が変化してしまうため、本研究ではFH-VFHとMP-VMPの2つの基準平面を用いて評価した。
 FH-VFHでは歯の正確な移動量を表すことは難しいが、下顎と咬合平面と歯の動きにおける基本的な治療の全体的な効果を評価することは可能である。
 また、頭蓋底における下顎と下顎歯列の位置関係についても評価することが可能である。
 一方、MP-VMPでは、遠心移動による歯列の変化を評価することが可能である。
・セファロ分析による評価では、基準点同定のエラー、2次元に投影していること、解剖学的構造による重ね合わせ、頭の位置による問題などの欠点がある。
このため、CBCTを用いて評価する方がより効果的である。
・RFの際は、下顎孔に注意して行うべきである。
 この埋入部付近には、歯髄や第三大臼歯の歯周組織への血液供給を行っている神経と血管が走行している。
・本研究では、1/2咬頭Class IIIの患者さんを対象にしたが、Full Class IIIの患者さんへのRFの有効性についても今後検証すべきであると考えられる。
・本症例の中で中切歯根尖がより大きく後退した結果、下顎中切歯がシンフィシス舌側皮質骨を越えて移動していたものが認められた。
 これらの歯において治療中と保定期間中に歯髄診と動揺度を観察していたが、大きな異常は認められなかった。
 また、保定期間において、この根尖が再度骨により覆われていることが確認された。
 下顎歯列の遠心移動に際して、このような有害な反作用については、さらなる調査が必要であると考えられる。
・動的治療後の安定性についても、矯正治療における重要な項目の一つである。
 より大きな歯の移動で、特に傾斜移動が主であった場合、後戻りも大きく生じてしまうといわれている。
 過去の研究では、3.5mmの遠心移動に対する後戻り量は0.3mmだったと報告されている。
本研究では後戻りの評価を行っていないため、歯体移動や傾斜移動を含めた遠心移動における後戻りに関してもさらなる調査が必要であると考えられる。

まとめ

・下顎枝に固定源としてプレートを埋入することで、下顎歯列全体の遠心移動を効果的に行うことが可能であった。
 そして、この治療法において、大臼歯の垂直的な移動や下顎下縁平面についても大きな変化を惹起することはなかった。
 そのため、Class IIIで外科的矯正治療に対して気がすすまない患者さんにおいて、RFを用いた治療法は有効である可能性が示唆された。

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