日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。
The development of the PAR Index (Peer Assessment Rating): reliability and validity.
Eur J Orthod. 1992 Apr;14(2):125-39.
Richmond S, Shaw WC, O’Brien KD, Buchanan IB, Jones R, Stephens CD, Roberts CT, Andrews M.
緒言
Peer assessment rating(PAR)とは、不正咬合と治療の効果を評価する方法である。
これは1987年に10人の矯正科医(British Orthodontic Standards Working Party) によってつくられたもので、200以上の治療前後の模型について議論し、咬合の評価基準が制定された。
本文献は、そのPARの信頼性と有効性についてまとめたものであり、要点を以下に記す。
・0が最も良好で、スコアが高くなっていくほど不調和の割合が高くなっていく。
矯正治療前後のトータルのスコアを評価し、比較することで矯正治療の効果を確認することができる。
・PARの評価項目は以下の通りである。
– 上下顎前歯部のコンタクト ポイント
– 上下顎左右側方歯群のコンタクト ポイント
– 左右側臼歯関係
– Over jet
– Over bite
– 正中線
・不調和の値は以下の通りである。
– 0: 不調和が0-1mm
– 1: 不調和が1.1-2mm
– 2: 不調和が2.1-4mm
– 3: 不調和が4.1-8mm
– 4: 不調和が8mm以上
– 5: 埋伏歯
・前歯部の埋伏歯について、スペースが≦4mmであれば記録する。
特に多い犬歯については、前歯部に記録する。
・混合歯列期に叢生の可能性がある場合は、以下の平均値を利用する。
– 上顎犬歯 8mm、上顎第一小臼歯 7mm、上顎第二小臼歯 7mm: 合計22mm
– 下顎犬歯 7mm、下顎第一小臼歯 7mm、下顎第二小臼歯 7mm: 合計21mm
・側方歯群の咬合関係については、犬歯-最後臼歯までを評価する。
評価方法は以下の通りである。
前後的な観察
– 0: Class I、II、IIIでも良い咬頭篏合がなされている
– 1: 半咬頭以下の不調和を認める
– 2: 咬頭対咬頭以上の不調和を認める
垂直的な観察
– 0: 垂直的な不調和が認められない
– 1: 2歯以上に2mm以上のLateral open biteが認められる
左右的な観察
– 0: 交叉咬合が認められない
– 1: 交叉咬合の傾向を認める
– 2: 1歯の交叉咬合を認める
– 3: 1歯以上の交叉咬合を認める
– 4: 1歯以上の鋏状咬合を認める
・Over jetについて、側切歯-側切歯間で最も特徴的な歯を計測に使用し、咬合平面と平行に計測する。
評価法は以下の通りである。
Over jet
– 0: Over jetが0-3mm
– 1: Over jetが3.1-5mm
– 2: Over jetが5.1-7mm
– 3: Over jetが7.1-9mm
– 4: Over jetが9mm以上
前歯部交叉咬合
– 0: 前歯部交叉咬合が認められない
– 1: 1歯以上が切端咬合
– 2: 1歯が前歯部交叉咬合
– 3: 2歯が前歯部交叉咬合
– 4: 2歯以上が前歯部交叉咬合
例えば、上顎両側側切歯が交叉咬合でOver jetが4mmの時は、3+1=4となる。
・Over biteについてもOver jetと同様に側切歯-側切歯で評価し、一番重なりの大きいところの計測を行う。
評価方法は以下の通りである。
開咬
– 0: 開咬が認められない
– 1: 1mm以下の開咬が認められる
– 2: 1.1-2mmの開咬が認められる
– 3: 2.1-3mm開咬が認められる
– 4: 4mm以上の開咬が認められる
過蓋咬合
– 0: 上顎前歯が下顎前歯の1/3を覆っている
– 1: 上顎前歯が下顎前歯の1/3-2/3を覆っている
– 2: 上顎前歯が下顎前歯の2/3以上を覆っている
– 3: 上顎前歯が下顎前歯のすべてを覆っている
・正中の評価は、下顎中切歯を用いるう。
もしも下顎中切歯が先天性欠如や抜歯などでない場合は評価を行わない。
評価方法は以下の通りである。
– 0: 一致しているか、ズレが下顎中切歯歯冠幅径の1/4以下である
– 1: ズレが下顎中切歯歯冠幅径の1/4-1/2である
– 2: ズレが下顎中切歯歯冠幅径の1/2以上である
・評価者間のズレにおいて、上顎側方歯群はサイズが大きく形態的なばらつきもある。
また、コンタクト ポイントが広いため、下顎に比べて評価のズレが生じやすい。
左右側の評価にも違いが生じる可能性がある。
これは、模型をどの角度から見るかによって変わってくるためである。
しかし、いずれにしろその誤差は非常に少ないものであるとの報告がなされている。
・術前、術後の評価の平均的に要する時間は6分である。
まとめ
PARはすべての咬合の形態を単純化した、すべての不正咬合と治療法に使用できる指標でることが確認できた。
そして、術前と術後のスコアを比較することで治療の効果も評価することができる。
また、計測者間の誤差も小さく、再現性と有効性が高い評価法である可能性が示唆された。