院長ブログBlog

矯正治療; 両側性唇顎口蓋裂の症例報告

カテゴリ:S.B.G.

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Secondary bone grafting in cleft lip and palate with eruption of tooth into the graft: a case report.

J Indian Soc Pedod Prev Dent. 2004 Mar;22(1):8-12.
Batra P, Sharma J, Duggal R, Parkash H.

緒言

 唇顎口蓋裂の患者さんにおいて、治療法の違いが一番現れるのは、骨移植のタイミングである。
この骨移植は、Primary、Secondary、Tertiary(三次)に分けることができる。
 子供の早いうちに口唇形成術と同時に行われるのがPrimaryである。
このタイミングでの骨移植は、上顎骨の成長に影響を及ぼすとの報告もされている。
この方法には議論の余地があり、逆効果との報告もなされていることから、現在ではほとんど行われていない。
 Secondaryとは、混合歯列後期で行われる骨移植である。
これは、犬歯萌出のための適切な歯周組織のサポートと、顎列部に近接している歯の保存の目的で、上顎犬歯萌出前に行われることが多い。
 最後に、矯正治療終了後の永久歯列期のタイミングで骨移植をすることがTertiaryである。
Tertiaryを行うことで補綴処置や歯周再建処置を行うことができ、鼻腔への劣隙の閉鎖を行うことも可能である。
しかし、歯に近接している部分への骨移植を行うことは出来ない。
また、まれに犬歯の歯根吸収を惹起させてしまう危険性もある。
この原因は、露出している歯根に移植する骨が接触してしまうことである。
 多くの研究において、SecondaryはPrimaryにみられるような医原性の影響がなく骨移植を行うことができるため、多く用いられている方法である。
 移植した海綿骨は、移植後3ヵ月でレントゲン上でもわからないくらい隣接している骨と同化する。
矯正治療の見地からいうと、Secondaryの最大の利点は、移植骨により顎列部が閉鎖されることにより、上顎犬歯の自然萌出が可能であるということである。
 そのため、Secondaryを行う際は、骨移植の前後における矯正治療計画をしっかりと立案することが必要である。
 本文献は、両側唇顎口蓋裂の患者さんのCase reportである。

対象と治療経過

 患者さんはAIIMS(All India Institute of Medical Sciences)にて、生後3ヵ月で口唇形成術、18ヵ月で口蓋形成術を行った。
 その後、言語療法士にて発音の練習を行い、混合歯列期にて上顎左側中切歯の交叉咬合を可撤式装置にて治療した。
 混合歯列後期にて、臼歯部交叉咬合の治療のため、NiTi palatal expanderによる上顎側方拡大を行った。そして、Secondary bone graftを行い、同時に口唇修正術も行った。
なお、移植骨は腸骨から採取した。
 骨移植3ヵ月後に上下顎マルチブラケット装置を用いて動的治療を行った。
なお、骨移植6ヵ月後のレントゲンにて、骨移植部は安定した状態であることを確認した。

考察

・AIIMSにおける唇顎口蓋裂の患者さんの治療の手順は以下の通りである。
– 生後生後3ヵ月で口唇形成術、12ヵ月で口蓋形成術を行う。
– 術後すぐに顎矯正力を用いた矯正治療は行わない。
– 混合歯列期に矯正治療を行う。
– 混合歯列後期にSecondary bone graft を行う。
・骨移植と再建のゴールは以下の通りである。
– 移植骨の安定化。
– 顎列の閉鎖。
– 歯槽骨の連続性の改善。
– 骨のサポート不足による歯の喪失の予防。
– 鼻翼基部のサポートの供給。
– 歯列の安定化。
– 口蓋の瘢痕化と歯列の連続性の欠陥によるMajor segmentの圧潰の防止。
– 水平性劣成長による臼歯部交叉咬合の防止。
– 上顎の垂直的劣成長による上顎犬歯部の垂直的劣成長の防止。
– 上顎前歯部交叉咬合の防止。
・上顎複合体の前後的、水平的な成長の95%は8歳までに完了する。
そのため、顎裂部に対する骨移植は9-11歳(上顎犬歯が萌出前で、根が1/2-2/3完成した段階)で行うのが一般的である。
 この段階では、上顎複合体の前後的、水平的な成長は終了し、垂直的な成長のみが残っている。
 そのため、9-11歳で行う骨移植は中顔面の成長に影響を与えることはなく、上顎犬歯萌出のための骨サポートを提供することができると考えられる。

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