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矯正治療; 歯学教育を受けたもの一般人との側貌の評価の違いについて

カテゴリ:Attractive Face

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Effects of dental education and psychological feature on the perception of the facial profile.

Orthod Waves 2020; 79(2): 65-71
KATSUNO Mai, FUJII Chise, NAKAMURA Fumihiko, TONE Wakako, ONUMA Takuya, SAKAI Nobuyuki, SAKO Noritaka, KITAI Noriyuki

 

緒言

 矯正歯科臨床において、上下顎前歯の位置を変化させて側貌を改善することは治療目標の一つである。
 そのため、矯正歯科治療計画を立案するためには側貌を評価する必要があり、この基準線としてE-lineが基準として広く用いられている。
 しかしながら、E-lineは鼻の形態、下顎の位置および更新の突出度の影響を受ける。
 患者の満足を得るためには、検査資料から得られた客観的評価だけではなく、主観的評価を調べることが重要である。
 患者さんにとっての最も好ましい側貌は、被験者の美的感覚を示すもので、矯正歯科治療の目標にはならないと考えられる。
 患者さんの希望と矯正歯科医の設置する治療目標が一致しない場合は、患者さんが治療結果に不満を示す可能性がある。
 そのため、患者さんに許容される側貌はどのようなものかを、その主観的認識が教師歯科医と異なるかどうかを知ることは矯正歯科治療計画を立案する上で非常に価値のあるものと考える。 
 心理学分野において、心理特性と歯の色彩認知との関連を調べた研究では、心理的に抑うつ傾向や劣等感の強いものは、自分自身の歯の色を実測値より暗く黄色との思い込むと報告されている。
 本研究の目的は、(1) 歯科医学教育を受けていないものが違和感があると判断するのはどのような側貌か、(2) 歯科医学教育を受けたものと受けていない者との間で違和感があると判断する側貌に差があるかどうか、(3) 側貌の審美性認識が被験者の心理特性と関連するかどうかを明らかにすることである。

 
材料ならびに方法

1. 顔合成画像の作成
 非接触型三次元デジタルカメラ(3dNDcranial System, 3dMD, Atlanta, GA, USA)を用いて撮影した骨格性I級を示す女性22名(平均年齢: 24±6.5歳、外科的矯正治療患者は含まない)の三次元顔面軟組織画像を用いて、画像解析ソフトウエア(Face-Rugle Ver.2.00, メディックエンジニアリング, 京都)により平均顔を作成した。
 この平均顔の側面位画像(以下 平均側貌画像と記す)から、鼻下点とオトガイを固定してフランクフルト平面に平行に上下口唇を前後に1mmずつ変化させ、10mm後退させた画像(以下 -10mm画像と記す)までの10種類および10mm前突させた画像(以下 +10mm画像と記す)までの10種類の顔合成画像を作成し、平均側貌画像を含む21画像を以下の実験に用いた

2. 被験者
 被験者は計98名(男性: 45名、女性: 53名、22.3±2.9歳)で、歯科医学教育を受けた(歯科矯正額の講義を履修した)某大学歯学部5年生、某歯科衛生士専門学校2年生および3年生51名(男性: 23名、女性: 28名、23.4±3.1歳)と、歯科医学教育を受けていない一般学生47名(男性: 22名、女性: 25名、21.0±1.9歳)とし、前者を歯科医学教育を受けた群、後者を歯科医学教育を受けていない群とした。

3. 側貌の違和感の有無の評価方法
 前述した21画像から無作為に抽出した1画像を、モニター上に10秒間ずつ表示して被験者に閲覧させ、違和感の有無を回答させた。

結果

1. 側貌の審美性認識と歯科医学教育との関係
 平均側貌画像における軟組織分析の結果、上唇はE-line上で、下唇はE-lineに対して1.5mm前突していた。
この値は、日本人の頭部エックス線企画写真軟組織分析における標準地と近い値を示した。
違和感があると判断した者の比率が70%以上である側貌の範囲は、歯科医学教育を受けた群では+7から+10mm、受けていない群では+9から+10mmであった。
違和感がないと判断した被験者の比率が70%以上である側貌の範囲は、歯科医学教育を受けた群では、-7から+3mm、受けていない群では-7から+4mmであった。
 違和感がない側貌として、最も比率が高かったのは、歯科医学教育を受けた群では-4mm、受けていない群では-2mmと-1mmであった。
 また、-9mm、+1mm、+2mmおよび+7から+10mmの画像は、歯科医学教育を受けた群が、受けていない群より違和感があると判断した比率が有意に高かった。

考察

・側貌の主観て評価を調べた過去の報告では、シルエット写真が用いられることが多かった。
 しかし、側貌を評価する資料として適しているカラー写真であり、側貌を評価する際は、視線が身に集中しやすいと報告されている。
・標本が正規分布の場合、平均±1標準偏差の範囲に全体の約70%のデータが分布することから、本研究では、違和感の有無を判断した被験者の比率が70%以上となる側貌の範囲を被験者の大多数の判断によるものとみなした。
 歯科医学教育を受けていない群の大多数は、平均側貌画像から9から10mm前突した側貌を違和感がある側貌、平均側貌画像から7mm後退した側貌から4mm前突した側貌までの広い範囲を違和感がない側貌と判断した。
 このことから、平均側貌画像から7mm後退した側貌から4mm前突した側貌の範囲に治療目標を設定すれば歯科医学教育を受けていない一般人の大多数から許容されることが示唆された。
・違和感がない側貌として、最も比率が高かったのは、歯科医学教育を受けた群では-4mm、受けていない群では-2mmと-1mmであった。
 本研究で用いた平均側貌画像は、過去に報告された日本人成人女性の平均値に近い値を示したことから考えると、本結果は、日本人成人女性の平均値より後退した行進を最も違和感がないと判断するということを示し、最も好ましい側貌についてシルエット写真を用いて調査した報告と同様の結果であった。
・平均側貌画像から1mmあるいは2mm前突した側貌では、歯科医学教育を受けた群では、受けていない群と比較して違和感があると判断した比率が有意に高かった。
 これは、矯正歯科医で一般人と比較して、更新が後退している側貌を好むとした報告と同様な結果と考えられる。
 このような結果が得られたのは、歯科医学教育を受けたものでは、歯科矯正額の講義を履修済みで、口唇がE-lineより前方に位置している場合に口元が出ていると評価することを学んでいるためであると考えられる。
・本研究の年齢は、歯科医学教育を受けた群が受けていない群よりも有意に高かったため、年齢差による違いが表れたことも否定できない。
 また、心理特性の影響については、歯学など限定された教育を受けた被験者を含む結果であるため、今後は一般対象者において検討する必要がある。

 
まとめ

・歯科医学教育を受けたものは受けていないものと比較して、口唇が軽度に前突した側貌に対して違和感があると判断した比率が有意に高かった。
・歯科医学教育を受けたものは受けていないものと比較して、口唇が重度に前突した側貌に対して違和感があると判断した比率が有意に高かった。

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