日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。
Midline correction by asymmetric reciprocal torque: a pilot study.
J Orofac Orthop. 2012 Aug;73(4):317-25.
Onodera K, Celar A.
緒言
顔面非対称について、臼歯の片側性の過萌出は咬合平面のカントを生じさせ、下顎の側方偏位と顎関節の成長の左右差を惹起させ、顎関節症を惹起させてしまう。
そこで、本研究では、下顎の偏位と咬合平面のカントを有する患者さんに対して、歯の近遠心的な移動や抜歯ではなく、犬歯と小臼歯に非対称なトルクを加えることによる治療の効果を検証した。
対象
8人(男性: 4人、女性: 4人、平均年齢: 31歳(16-45歳))で、選択基準は以下の通りである。
・オトガイの2-4mmの偏位偏位を認める。
・咬合平面のカントを認める。
・それ以外の骨格的な不調和を認めない。
患者さんはすべて・Class II div.1で、顎関節症状として、クリックは認めたが、疼痛やクレピタスは認めず、復位を伴わない関節円板の前方転位と診断した。
方法
フェイスボウ トランスファアーもにて上顎模型を咬合器にマウントし、治療前後の咬合の機能的な評価を行った。
トルクを入れるためのワイヤーは、.018x.025”ブラケット(4人)の場合は.016x.022” Elgiloyに25°、.022×0.25”ブレケット(4人)の場合は.017x.025”TMAに35°のトルクを入れた。
また、犬歯-第二小臼歯へのトルクの入れ方は以下の通りにした。
・下顎偏位側の上顎 – Crown Palatal Tr
・下顎偏位側の下顎 – Crown Buccal Tr
・下顎非偏位側の上顎 – Crown Buccal Tr
・下顎非偏位側の下顎 – Crown Lingual Tr
これらのトルクの目的は、犬歯-小臼歯のガイダンスの角度を変えることによる、偏位した下顎の位置の是正である。
上下顎両側側切歯遠心-第二大臼歯近心までにL-loopを設け、スペースメイクをすることにより、下顎の偏位側の歯が頬側に移動できるようにした。
また、この治療中に下顎の移動における咬合の維持のため、両側上顎犬歯-第一小臼歯-下顎犬歯にて3/16、6ozの三角形の顎間ゴムを使用した。
評価法として、下顎の移動に伴う治療前後の変化を3次元的に捉えるため、Electronic hinge axis tracingを行った。
結果
・矯正治療前は、下顎非偏位側の上顎犬歯のガイダンスと小臼歯のトルクが6-13°急峻であった。また、偏位側では上顎犬歯と小臼歯のトルクは平坦であった。
・トルクを非対称に入れることで、非偏位側の下顎の側方への移動を許容するために上顎犬歯と小臼歯のトルクを平坦にし、偏位側には急峻なトルクをかけた。ガイダンスの変化量は、犬歯で6.5±4.7°、第一小臼歯で7.0±4.1°、第二小臼歯で6.3±3.7°であった。
・偏位の是正にかかった治療期間は2-3ヵ月で、その是正量は切歯で平均1.6mm(標準偏差0.8mm)であった。
・患者さんは新たな顎位に対してすぐに順応でき、2人は正中が完全に改善し、6人は部分的に改善していた。
そのずれの量は平均で0.5mmであった。なお、この0.5mmは後のOblique elasticにて是正された。
・治療前後のHinge axis tracingの重ね合わせでは、術前の下顎の偏位量は1.3mmであったが、治療後は0.6mmになっていた。
考察
・咬頭のトルクは、咬合時に歯列や顎関節に対して大きな影響を与える。
今回、顔面非対称の患者さんは左右側で犬歯と小臼歯のガイダンスが異なることが明らかになった。
・相反的なトルクをかける今回の方法では、非偏位側の上顎歯列弓幅径が拡大された。
反対側では、上顎歯列弓に狭小の力をかけるトルクを組み込んだ。
上顎の平坦なガイダンスは下顎の正中方向への移動を許容し、急峻なガイダンスは、下顎を正中是正の方向に移動させる力を持つ。
一方、下顎の、上顎とは反対の非対称なトルクは、上顎によってなされる機能的な効果を助長するためのものである。
・咬合の変化は、顎関節の位置にも影響を与えると考えられたが、術後のAxiographic tracingにて、術前よりも顎運動時の側方偏位がみられなかった。
・側方ガイダンスの変化は数ヵ月で認められた。
患者さんはこの変化に順応し、術前、術後のHinge axis tracingでは、治療後に円板転位の量が減少していた。
・トルク量において、あまりに小さなトルク力をかけても下顎の移動は生じず、今回用いた犬歯-小臼歯への25°もしくは35°のプログレッシブ トルクは有効であったと考えられる。
今回大臼歯にはトルクをかけなかった。
大臼歯の平坦な咬頭は、トルクをかけて急峻にするよりも咬合のサポートがなされやすいと考えられる。大臼歯の片側のみの咬合接触は機能異常を惹起する可能性があり、避けるべきである。
・今回用いた相反的な非対称のトルクは、ほとんど前歯部に影響しないが、もしも必要であれば、側切歯に1stもしくは2nd order bendを加えるべきであると考えられる。
・顔面非対称の患者さんの84%が顎関節の咀嚼筋の活動量の左右差による機能異常と下顎頭の後方位を伴っており、Class IIは下顎頭の後方位に関与していると報告されている。
・咬合平面のカントを認める患者さんはガイダンスに左右差がある場合があり、より後方歯でガイドが急峻になっていることが多い。
矯正治療によってこの咬合平面のカントを取り除くことで、側方偏位した下顎と下顎頭の再配置を行うことができ、顎運動にも変化を与えることができると考えられる。
まとめ
・2-4mmの下顎の偏位を伴う顔面非対称で咬合平面のカントを伴う患者さんに対し、非抜歯で、相反的な非対称のトルクコントロールを行う治療は、成虫の改善において有効であった。
・片側の機能的な拡大(ガイダンスの平坦化)と反対側の機能的な縮小(ガイダンスの急峻化)を同時に行うことで、下顎の側方移動による正中の是正を行うことができた。
・もしもこの治療の結果不安定であったり機能的障害が認められる場合や、正中のズレが3-4mm以上の場合は、外科的矯正も考えるべきである可能性が示唆された。