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矯正治療: 矯正用アンカースクリューの材料の違いによる比較について

カテゴリ:T.A.D.

日々の臨床に役立たせるための、矯正治療に関する論文を紹介します。

Revisiting the stability of mini-implants used for orthodontic anchorage.

J Formos Med Assoc. 2015 Nov;114(11):1122-8. 
Yao CC, Chang HH, Chang JZ, Lai HH, Lu SC, Chen YJ.

 

 矯正治療において、固定源を考えることは重要である。
 ここ最近では、固定源として矯正用インプラントを用いた研究が数多くなされている。
 デンタルインプラントと比較して、矯正用インプラントはサイズが小さく、価格も安価で、埋入や除去が容易である。
 この矯正用インプラントには、ミニプレートとミニスクリューがり、ともに周囲骨組織との機械的篏合によって安定化する。
そして、弱い矯正力であれば埋入後即時負荷をかけることも可能であると報告されている。
 SchazleらのSystematic reviewによると、脱落率において、ミニプレートは7.3%、ミニスクリューは16.4%であり、ミニスクリューの直径が2mm以上のものは1.2mm以下のものと比較して脱落の確立が1/2以下であると報告されている。
 矯正用インプラントの脱離の原因は多岐にわたり、患者さんの年齢、下顎下縁平面角、骨密度、矯正用インプラントの使用目的、負荷をかけるまでの治癒期間、炎症の有無、歯根との距離、矯正用インプラント周囲軟組織の特徴などが挙げられる。
 矯正用インプラントの材料の多くはチタンもしくはチタン合金であるが、ステンレススチール製のものもあり、チタン製のものよりもステンレススチール製のものの方が骨への干渉が少ない。
また、ステンレススチール製のものは曲げ強さが高く、ねじれへの耐性が強い機械的特徴があるため、埋入時の破折が少なく、先端がより鋭角なため、埋入時に歯槽骨や頬骨下稜に対してプレドリルの必要がない。
 本研究では、チタン製のミニプレート、プレドリルを必要とするチタン製のミニスクリュー、プレドリルを必要としないステンレススチール製のミニスクリューを用いて、脱落率と安定性に影響を与える因子について評価した。

対象

・2007年9月から2012年9月までにOrthodontic Department, National Taiwan University Hospitalにて矯正用インプラントを埋入した220人(男性: 66人、女性: 154人、平均年齢: 29.3歳)の727本とした。
・1人当たりの矯正用インプラントの埋入本数は1-8本(1本: 34人、2本: 82人、3本: 26人、4本: 49人、5本: 10人、6本:13人、7本: 5人、8本: 1人)だった。
 ほとんどの患者さん(87%、191/220人)に埋入されていた矯正用インプラントは4本以下だった。
・矯正用インプラントの種類は3つで、チタン製のミニプレート(P)が159本、プレドリルを必要とするチタン製のミニスクリュー(L-miniscrew; Leibinger, MuhlheimSteleten, Germany)が388本、プレドリルを必要としないステンレススチール製のミニスクリュー(J-miniscrew; Kwung-Jer, Taipei, Taiwan)が180本であった。
 すべての矯正用インプラントは、口腔外科医が埋入し、従来通りの術式で行った。
・矯正用インプラントについて、著しく緩くなっていたり動揺していたりして、負荷される矯正力に耐えられないと判断したものを「脱離」と定義した。
 もしも矯正用インプラントが脱離した場合、今後の治療において再度必要と判断した場合は再埋入を行った。
 結果的に、643/727本は1回目に埋入したもので、84/727本は再埋入したものだった。

分析

・それぞれの矯正用インプラントにおける埋入本数と、埋入回数における脱落率について計算した。
 また、単変量解析ならびに多変量解析については、1回目の埋入である643本を対象にした。
・患者さんのデータとして、性別、年齢、臼歯関係、下顎下縁平面角(High: SN-Mp >45°、Average: 45°≧SN-Mp≧25°、Low: Sn-Mp<25°)を抽出した。
・矯正用インプラントに関するデータとして、矯正用インプラントの種類(P: ミニプレート、L: プレドリルを必要とするチタン製のミニスクリュー、J: プレドリルを必要としないステンレススチール製のミニスクリュー)、埋入部位(上顎か下顎か、頬側か口蓋側か歯がないところの歯槽骨か、第二小臼歯の近心か遠心か)、埋入部位の骨密度(D2、D2-D3、D3、D4)、埋入部位の軟組織(付着歯肉、齦頬移行部、可動粘膜)、軟組織の炎症の有無(ない、中等度、重度)、埋入1-2週間後の状態、治癒期間(30日以内か30日より多いか)を抽出した。
 骨密度に関しては、Mischの埋入時における術者の感覚を用いて記録し、軟組織の炎症に関しては、埋入2週間後の状態をGingival indexの変法を用いて評価した。
・矯正用インプラント脱落と骨格的な特徴との関連性を調査するため、セファロ分析にてSNA、SNB、ANB、A-Nv、Pog-Nv、SN-FH、SN-OP、SN-MP、U1-SN、U1-L1、L1-OP、L1-MPを抽出した。

結果

・1回目に埋入した矯正用インプラントについて、Pの脱落率は5.4%(8/147人)であり、L(19.1%、64/335人)、J(25.4%、41/161人)と比較して低かった。
・すべてのタイプの矯正用インプラントにおいて、1回目に埋入したものよりも2回目に埋入したものの方が脱落率は上昇しており、この傾向はJでより有意であった(P: 22.2%、2/9人、L: 27.7%、13/47人、J: 73.3%、11/15人)。
・単変量解析において、カイ二乗テストを用いて患者さんに関係のある因子と矯正用インプラントに関係のある因子における脱落率の関係性を調査した結果、患者さんの年齢、矯正用インプラントの種類、埋入部位、軟組織の特徴が矯正用インプラントの脱落と有意に関係のある因子であった。
 患者さんの性別、臼歯関係、下顎下縁平面角については脱落率との関係性が認められなかった。
 また、矯正用インプラントの脱落率と矯正用インプラントに関わる事項として埋入部位として上顎か下顎かと、第二小臼歯の近心か遠心か、骨密度、軟組織の炎症の有無、治癒期間については有意な相関関係が認められなかった。
・より明確な相関関係を調査するためGEE modelを用いた結果、ミニスクリューはミニプレートと比較して脱落率が有意に高く、その割合は約5倍であった。
 また、患者さんの年齢、矯正用インプラントの種類、治癒期間、埋入部位については脱落率と有意な相関関係が認められた。
 患者さんの年齢について、35歳以下ではそれより年上と比較して脱落のリスクが高かった(OR=11.68)。
 また、興味深いことに、治癒期間について、矯正用インプラントを埋入後30日あけたものは30日以内に負荷をかけたものと比較して脱落率が高かった(OR=2.04)。
 歯のない歯槽骨に埋入したものは、歯のある歯槽骨の頬側もしくは口蓋側に埋入したものと比較して脱落率が高かった(OR=12.89)。

考察

・過去の研究において、ステンレススチール製のミニスクリューにおいて大きなサンプル数を用いて評価したものは認められない。
 今回の研究において、PはLやJと比較してその脱落率が低かった。
 また、1回目の埋入におけるLとJの脱落率を比較したところ、同等であることが分かった。
 これは、埋入における外科的処置に対して精通していると、LとJとでは安定性に有意差が認められないということを示している。
 2回目の埋入においては、ステンレススチール製のものがチタン製のものと比較して脱落率が高かった。
・単変量解析において矯正用インプラントの安定性について評価したところ、患者さんの年齢、矯正用インプラントの種類、埋入部位、軟組織の特徴が脱落と相関関係が認められた。
 そして、GEE modelを用いてより詳細な調査をしたところ、歯に隣接していない部位に矯正用インプラントを埋入し、患者さんが35歳以下で矯正力を埋入後30日以上たってから負荷させることが最も脱落のリスクが高かった。
・ほとんどの矯正用インプラントはチタン製もしくはチタン合金製であるが、ステンレススチール製のものも矯正用インプラントとして用いられている。
 チタンとステンレススチールとではその性質が明確に異なるが、骨折時の固定としてはともに生体力学的な必要事項を満たしている。
 今回の研究において、ステンレススチール製のミニスクリューは、矯正用インプラントとしてチタン製のものと同等にOsseous integrationすることがわかった。
 ステンレススチールはチタンと比較して張力が優れているため、失敗する前に曲げることができる。
また、ステンレススチールの有するねじれの特性により術者は埋入時に手指感覚を得られるため、埋入時のミニスクリューの破折のリスクを防ぐことができる。
 一方チタン製のミニスクリューは埋入時の手指感覚が得られにくいため、埋入時にミニスクリューが破折しても術者は気付きづらい。
・セルフドリリングのステンレススチール製のミニスクリューはテーパー上の形態をしており、先端も鋭角なため、プレドリルを必要とせずに上顎歯槽骨や頬骨下流への埋入が可能である。
 筆者のクリニックでは、このステンレススチール製のミニスクリューを2005年から使用しているが、このころから世界的にも大臼歯の圧下やHigh angleに対する垂直的なコントロールを目的として広く使用され始めた。
・フラップ手術を必要とするミニプレートは、ミニスクリューを埋入するよりも観血的であるが、ミニプレートはミニスクリューと比較して力のかけ方により多様性があり、特に著しい大臼歯の圧下や歯列弓全体の遠心移動が必要な場合は有効である。
・テーパー状のセルフドリリングのステンレススチール製のJ-miniscrewと円柱状のチタン製のL-miniscrewとでは、ともに1回目の埋入における安定性については有意差が認められなかったが、2回目の再埋入においてはステンレススチール製のものの脱落率が有意に増加していた。
 これは、プレドリルを行わないことによりステンレススチール製のミニスクリュー周囲の骨に微小亀裂が生じたためと考えられる。
 テーパー状のミニスクリューは埋入時により高いトルクがかかるため、円柱状のものと比較して周囲の骨に微小亀裂が生じる可能性が高いと報告されている。
 セルフドリリングのものはプレドリルが必要なミニスクリューと比較してトルクがよりかかりやすいことも報告されている。
 脱落部位に再埋入した時の周囲組織の反応については、今後より詳細な研究が必要である。
・矯正力を負荷することでミニスクリューが多少動いてしまうため、歯槽骨への埋入に関しては安全な部位を選択する必要がある。
 歯根間に埋入する場合は歯根への接触を考慮すべきであり、歯の移動に妨げになるようであれば位置を変更して再埋入する必要がある。
 歯槽骨に対して斜めに埋入することで歯根への接触のリスクを減少させることが可能であるが、安定性も減少してしまうと報告されている。
 プレドリリング時やミニスクリューの埋入時に抵抗の増加を感じるようであれば歯根への接触の可能性を考慮すべきである。
 今回の研究に用いたステンレススチール製、チタン製のミニスクリューの直径はともに2.0mmであるが、歯根への接触の可能性をなくすためには歯根間以外への埋入を考慮する必要がある。
・High angleでは皮質骨が薄い傾向にあるため、頬側歯槽骨への埋入は脱落のリスクが高い。
 また、下顎角が鋭角もしくは鈍角の患者さんは、正常の患者さんと比較して脱落のリスクが高いと報告されている。
 今回の研究において、下顎下縁平面角を基準にHigh angle、Low angle、正常という分類分けを行ったところ、High angleもしくはLow angleで特別脱離しやすいという結果は得られなかった。
 また、セファロ分析とミニスクリューの脱落との関係性を調査したところ、有意に相関関係がある項目は認められなかった。
・Gee modelでは、ミニスクリューの脱落には年齢が一番を大きな影響を与えており、35歳以下ではそれ以上よりも脱落率が有意に高かった。
 若年では骨密度が低く、骨の成熟度も低いことが報告されている。
・ミニスクリューの直径や長さについては、埋入部位の軟組織の厚みを考慮すべきである。
 今回の研究では、歯槽骨の頬側と舌側のミニスクリューの安定性は同程度だった。
 口蓋の埋入において頬側と同程度の安定性を求める場合は、軟組織の厚みを考えてより長いミニスクリューを選択するべきである。
・歯のない歯槽骨への埋入においては脱落率が有意に高かった。
 この理由として、骨のボリュームと密度が少ないためと考えられる。
・過去の研究では、ミニスクリュー埋入後3ヵ月以内で矯正力を負荷させた場合、脱落のリスクが増加すると報告されている。
 そのため、我々は即時負荷をかけることをやめ、埋入後3-4週間待ってから矯正力をかけることにしている。
 そして、もしも埋入時の安定性に確信が持てない場合はさらに治癒期間を設けることにしていた。
 しかしながら、本研究におけるGEE modelでは、30日以上の治癒期間を設けた場合、脱落のリスクが高いという結果であり、矯正力の負荷を遅らせることは信頼性に欠ける結果になった。
・口腔衛生状態は、ミニスクリューの脱離の局所的な要因のひとつであり、口腔内の衛生状態を良好に保つことがミニスクリューの安定性に寄与している。
 そして、歯根間以外にミニスクリューを埋入する場合、軟組織は付着歯肉だけでなく可動粘膜である可能性もある。
 過去の研究によると、ミニスクリュー周囲軟組織の炎症の有無がミニスクリューの安定性に大きく関係していると報告されており、患者さんへのミニスクリュー周囲のプラーク コントロールについては注意深く指導する必要がある
・今回の研究では、患者さん1人当たりにおいてミニスクリューの本数が増加しても、脱落率と有意な相関関係が認められなかったが、過去に研究では、相関関係が認められたとの報告がなされている。
 これに関しては、今後の検討課題である。
・今回の研究では、矯正用インプラントの安定性、特にステンレススチール製のものについて調査した。
しかしながら、今回の研究は後ろ向きで、特定のミニインプラントを用いたという制限がある。
 これは、今後の研究課題である。

まとめ

 サンプル数をより多くした今回の研究の結果、ミニプレートはプレドリルを必要とするチタン製のミニスクリュー、セルフドリリングのステンレススチール製のミニスクリューと比較してより安定性が高かった。
 ミニプレートはプレドリルを必要とするチタン製のミニスクリューとセルフドリリングのステンレススチール製のミニスクリューを比較した結果、1回目の埋入における安定性に有意差は認められなかったが、再埋入においてはステンレススチール製のものの脱落率が有意に高かった。
 以上のことより、ミニプレートもしくはプレドリルを必要とするチタン製のミニスクリューがステンレススチール製のミニスクリューと比較してより有効である可能性が示唆された。

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